自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討委員会「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(報告書)」(平成19年2月2日、以下「平成19年報告書」と略記する。)によると、高次脳機能障害の医学的な考え方として、脳外傷による高次脳機能障害の意義と特徴が、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、次のような特徴的臨床像であると報告されている。
(1)典型的な症状多彩な認知障害、行動障害および人格変化
認知障害とは、記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などで、具体的には、新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができない、などである。
行動障害とは、周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない、行動を抑制できない、危険を予測・察知して回避的行動をすることができない、などである。
人格変化とは、受傷前には見られなかったような、自発性低下、衝動性、易怒性、幼稚性、自己中心性、病的嫉妬、ねたみ、強いこだわりなどの出現である。
なお、これらの症状は軽重があるものの併存することが多い。
(2)発症の原因および症状の併発
上記(1)の認知障害、行動障害、人格変化は、主として脳外傷によるびまん性脳損傷を原因として発症するが、局在性損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫など)とのかかわりも否定できない。
実際のケースでは、両者が併存することがしばしば見られる。
また、びまん性脳損傷の場合、上記(1)の症状だけでなく、小脳失調症、痙性片麻痺あるいは四肢麻痺の併発も多い。
これらの神経症状によって起立や歩行の障害がある事案においては、脳外傷による高次脳機能障害の存在を疑うべきである。
(3)時間的経過
脳外傷による高次脳機能障害は、急性期には重篤な症状が発現していても、時間の経過とともに軽減傾向を示す場合がほとんどである。
これは、外傷後の意識障害の回復経過とも似ている。
したがって、後遺症の判定は、急性期の神経学的検査結果に基づくべきではない。
経時的に検査を行って回復の推移を確認すべきである。
しかし症例によっては、回復が少ないまま重度な障害が持続する場合もある。
(4)社会生活適応能力の低下
上記(1)の症状が後遺した場合、社会生活への適応能力が様々に低下することが問題である。
これを社会行動障害と呼ぶこともある。
軽症で、忘れっぽい程度の障害であれば日常生活への影響は少ない。
しかし、重症では就労や就学が困難になったり、介護を要する場合もある。
(5)見過ごされやすい傷害
脳外傷による高次脳機能障害は、種々の理由で見落とされやすい。
例えば、急性期の合併外傷のために診療医が高次脳機能障害の存在に気付かなかったり、家族・介護者は患者が救済されて意識が回復した事実によって他の症状もいずれ回復すると考えていたり、被害者本人の場合は自己洞察力低下のため症状の存在を否定している場合などがあり得る。
上記(1)の高次脳機能障害の典型的な症状に関連して、具体的な症状については、自賠責保険における「日常生活状況報告書」と、自賠責保険における医師用診断書である「脳外傷による精神症状等についての具体的な所見」を参考にされたい。
脳外傷による高次脳機能障害を医学的に判断するにあたっては、意識障害、画像資料が重要な役割を果たしており、また、医師の所見や家族・介護者等から得られる被害者の情報が有用である。
この点、前記平成19年報告書によると、意識障害や画像資料等について、以下(1)~(4)のように報告されている。
(1)意識障害の有無とその程度
脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴である。
一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合、外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに対し、二次性損傷では、頭蓋内血腫や脳腫脹が増悪して途中から意識障害が深まるという特徴がある。
また、脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは、永続的な高次脳機能障害が残ることが多い。
意識障害の程度・期間の重要性を良く認識した上で、十分な調査が必要である。
※ この点、高次脳機能障害認定システム検討委員会「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムについて」と題する報告書(平成12年12月18日)では、6時間以上継続すると永続的な高次脳機能障害が残ることが多い意識障害の程度について、JCSが3桁、GCSが8点以下が目安となるとしている。
また、「健忘症軽症意識障害(JCSが21桁、GCSが1314点)が一週間程続いても、高次脳機能障害を残すことがある。
ただし、高齢者の場合には、これらより短い意識障害期間でも高次脳機能障害が残ることがある。」としている。
(2)画像所見
びまん性軸索損傷の場合、受傷直後の画像では正常に見えることもあるが、脳内(皮質下白質、脳梁、基底各部、脳幹など)に点状出血を生じていることが多く、脳室内出血やくも膜下出血を伴いやすい。
受傷数日後には、しばしば硬膜下ないしくも膜下に脳脊髄液貯留を生じ、その後代わって、脳室拡大や脳溝拡大などの脳萎縮が目立ってくる。
およそ3ヶ月程度で外傷後脳室拡大は固定し、以後はあまり変化しない。
これらを踏まえ、認定には経時的な画像資料を通して脳室拡大・脳萎縮等の有無を確認することが必要である。
また、局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫等)が画像で目立つ場合でも、脳室拡大・脳萎縮の有無や程度を把握することが重要である。
(3)因果関係の判定(他の疾患との識別)
前述のとおり、頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し、次第に軽減しながらその症状が残存したケースで、びまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が認められる。
一方、頭部への打撲などがあっても、それが脳への損傷を示唆するものではなく、その後通常の生活に戻り、外傷から数ヶ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し、次第に増悪するなどしたケースにおいては、外傷とは無関係に内因性の疾病が発症した可能性が高いものといえる。
画像検査を行って、外傷後の慢性硬膜下血腫の生成や脳室拡大の伸展などの器質的病変が認められなければ、この可能性はさらに支持されるものと考えられる。
この可能性の中には非器質性精神障害も含まれる。
(4)障害把握の手法
脳外傷による高次脳機能障害の特有の症状等を踏まえて、各症状の有無とその程度を診療医に照会するため「診療医による具体的な所見」を用いており、また、同様の観点から、家族・介護者に照会するため「日常生活状況報告表」を使用している。
これにより、適正な後遺障害等級認定に必要な情報を木目細やかに収集する仕組みとしている。
乳幼児や高齢者に関しては、前記平成19年報告書では、以下のように報告される。
「一般に成人被害者は、急性期の症状の回復が急速に進み、それ以降は目立った回復が見られなくなるという時間的経過を辿ることが多い。
したがって、受傷後少なくとも1年程度を等級認定時期の目安としている。
しかし、乳幼児の場合は、障害の回復に当たって、脳の可塑性と家庭での養護性の影響が大であることを配慮する必要がある。
したがって、適切な経過観察期間、例えば、乳児では幼稚園などで集団生活を開始する幼時期まで、幼児では就学期に達するまでを設け、幼稚園、学校や施設などにおける適応状況を調査することが必要と考える。
これは、集団生活への適応困難さの有無が、成人後の自立した社会生活や就労能力に反映される可能性があると考えるからである。
また、高齢者の場合は、就労能力のみならず必要に応じ事故前を含めた事故後の日常生活状況(特に自立の程度)を調査し、その社会生活適応能力を判断している。」
高次脳機能障害の判断には、画像所見が非常に重要である。
画像所見は、受傷当日から初期の数日にかけて大きく変化し、その後の3週間は緩やかに変化して約3ヶ月で慢性期に至り安定する。
画像としては、脳の局所の出血や脳浮腫、脳の全般性の萎縮所見などがある。
撮影方法としては、受傷1日目を除けばMRIが最も有用であり、びまん性の脳損傷の場合、CTでわかりにくい白質の病変がMRIで描出されることがある。
急性期のCTで認められなかった損傷が後からMRIでわかることもある。
また、SPECTを用いた脳血流なども参考になる。
高次脳機能の臨床に用いられる画像検査としては、一般に、
(1)X線CT、
(2)MRI、
(3)SPECT、
(4)CPET
が挙げられる。
画像の見方として、通常、放射線科医は、CTやMRIの画像表示を左右逆にしており、画像の向かって右側が身体部位の左、左側が右である。
そして、通常のMRI画像は、縦5行、横4列のように格子状の区画がなされており、それぞれの格子が1断面に相当する。
画像の順序としては、例えば水平断の場合、画像の左上方から右下方に向かって、脳の下方(延髄)から上方(大脳)へ向かうよう配置されている。
(1)CT(Computed Tomography)
非侵襲的に頭蓋内の詳細な構造を可視化した最初の検査手法である。
組織では脂肪や髄液、病変では浮腫や脳梗塞巣などが、低吸収域(黒色)を示す。
脳実質は等吸収域(灰色)を示すが、同じ脳実質でも、灰白質(大脳皮質や大脳基底核等)は、やや高収域(白色)に見える。
病的状態では、血腫は初め高吸収域(白色)を示すが、10日以上過ぎると次第に等吸収域(灰色)へと変化する。
頭蓋内で高吸収域(白色)に写るのは頭蓋骨と頭蓋内の生理的石灰化巣(松果体など)である。
このCTにより、脳梗塞と脳出血、クモ膜下出血の鑑別が一目瞭然となった。
すなわち、急性期の脳梗塞病変は脳実質内の低吸収域(黒色系)、脳出血病変は脳実質内の高吸収域(白色系)、クモ膜下出血はクモ膜下腔の高吸収域(白色系)として描出される。これらは病変部の色により鑑別することができる。
X線CTは、最初に施行されるべき必須の検査である。
(2)MRI(Magnetic Resonance Image)
磁気共鳴画像の略で、上記X線CTよりも精細かつ他方向からの頭蓋内病変の検出を可能とした検査方法である。
X線CTでは基本的に水平断面の一方向のみで病変を評価することがほとんどであるが、MRIではこの水平方向(身体の上下方向の断面、水平断)の画像に加え、身体の前後方向(矢状断)及び左右方向の画像(冠状断)も描出することができ、脳の形態及び病変を三次元的に捉えることを可能とした。
MRI画像は、生体組織に含まれる水素原子が発する電波の信号をコンピュータに入力して、様々な条件でこれを処理して作成されるものであるが、この信号処理の条件を変えることにより同一部位を異なった黒白の濃度(信号強度)で描出することが可能である。
これによる画像の種類としては、T1強調画像、T2強調画像、FLAIR画像、拡散強調画像があり、それぞれの見方は以下のとおりである。
a T1強調画像
T1強調画像は、短いTR(=repetition time、パルスを与える間隔)、短いTE(=echo time、検出するまでの時間)を用いる撮影方法であり、脳実質を等信号(灰色系)、髄液を低信号(黒色)で示す画像である。他に低信号を呈するものは、空気、骨、石灰化、浮腫、炎症、梗塞などである。
逆に、高信号(白色)を呈するものは、脂肪、慢性期血腫などである。
この画像は、脳萎縮の程度を観察するのに適している。
一方、急性期の脳梗塞や炎症性・脱髄性病変は、脳実質との区別がしにくい灰色系の色で表れるため、これらの病変の描出には向いていない。
脳梗塞慢性期には低信号(黒色)を呈するため、同定することは可能である。
b T2強調画像
T2強調画像は、長いTR、長いTEを用いる画像であり、脳実質を低等信号(黒色ないし灰色系)、髄液を高信号(白色)で示す。
他に低信号を呈するものは、空気、骨、石灰化、脂肪、基底核の鉄沈着、筋肉、血腫である。逆に高信号を呈するものは、浮腫、炎症、梗塞、脱髄、慢性期血腫などである。
この画像は、白黒のコントラストがはっきりしているため、脳実質内の病変の検出に適している。
例えば、脳梗塞は、急性期から高信号病変で示され、慢性期でも、基本的には高信号のままで観察される。
c FLAIR画像
反転回復法(IR法)を応用した手法で、長いT1の設定により選択的に脳脊髄液の信号のみを抑制しながら、T2強調のコントラストを得るもので、解剖学的な構造をT1強調画像と同程度の精度で示し、かつ病変をT2強調画像と同程度の明瞭度で示す手法である。
FLAIR画像は、上記T2強調画像では、脳表面上の病巣、もしくは脳表に接するように存在する病巣については隣接する髄液の高信号が支障となり同定を困難とすることが多いため、この点を改良したものであり、脳表面における病変を検出する際に非常に有用である。
急性期から亜急性期にかけての病巣は高信号(白色)で、慢性期の病巣は低信号(黒色)で描出される。
d 拡散強調画像
細胞内における水素分子のブラウン運動を三次元的に捉え、これが減衰している部位を病変として表現する方法である。
急性期の梗塞病変を検出するのに優れた方法として普及している。
多発性脳梗塞の場合、従来のT2強調画像のみでは新たに出現した梗塞病変を正確に同定することは難しかったが、この方法により、急性期の病変を容易に鑑別することが可能になった。
(3)SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)
放射性同位元素を含む薬剤を体内に注入し、その分布から臓器における局所的な血流を計測する手法である。
X線CT及びMRIが脳及び病変の形態を捉えるために用いられるのに対して、SPECTは、脳における局所的な血流量を評価するために用いられる。
特に、脳血管障害で実際の病変よりも広範な機能低下が存在する場合や、認知症を呈する変性疾患における血流低下の分布のパターンを把握する際に有用な方法である。
(4)PET(Positron Emission Tomography)
陽電子放出型断層撮影の略称で、陽電子(ポジトロン)を放出する核種で標識した薬剤を体内に投与して、その体内分布を画像化する撮影法である。
放射性薬品が水、酵素、グルコース、アミノ酸などの体内代謝物質をよく標識して、これを撮像することにより、生理的、薬理的、生化学過程を三次元的に画像処理するものである。
PETは、上記BSPECT同様、脳血流量の測定に用いられる。
a 急性期
脳挫傷や、脳内血腫、くも膜下出血などの所見があり、その周辺には脳浮腫が伴う。脳が全体に腫脹している場合、脳室が小さくなったり、脳の表面の溝が小さくなったりする。
これらの所見がある部位が脳損傷の部位であり、その部位の機能が脱落した症状が出る。
例えば、言語野が傷ついている場合は失語症である。
急性期の初期1週間は、遅発性の脳内血腫や脳浮腫のために所見が急激に変化することがある。
一般的な撮影方法は、水平断のことが多いが、頭部外傷で損傷されやすい前頭葉底部や側頭葉底部の損傷は冠状態でないと分かりにくい。
また、画像の描出能力には限界があるため、何らかの損傷が認められた場合、その周辺も傷ついていると想定することが適当である。
外傷直後の数時間はMRIよりCTスキャンの方がわかりやすいことが多いが、一日経つとCTよりMRIの方が細かい病変を描出する。
超早期のMRIは分かりにくいが、数日経つと、出血はFLAIRで高信号として描出され、脳浮腫はT2で高信号として描出される。
出血は数日経つとT1で高信号として描出される。
拡散強調画像は、頭部外傷後の脳浮腫の広がりを描出する。
b 慢性期
慢性期は3ヶ月以降であるが、損傷部位の局所の脳萎縮や、限局性の脳室拡大が見られる。
a 急性期
びまん性軸索損傷は、減速又は加速の加速運動が頭部に生じたときに生じる。
脳組織は、部位により硬さが異なり一様に歪むわけではないので、組織の歪みの差による断裂が発生する。
脳梁、上下脳脚、大脳白質などで、軸索や血管に一時性のびまん性損傷が生じる。
低血流下や呼吸不全による酸素濃度の低下などから広範囲の脳損傷が生じることもある。
重度の場合は、著明な脳浮腫をきたし、受傷後の数日間に脳全体の浮腫が生じ散る場合、脳室が小さくなる。
びまん性軸索損傷は、局在性脳損傷と同時に起こることもあるが、局在性脳損傷がないびまん性軸索損傷のみの場合、外傷直後のCT及びMRI画像では一見すると正常に見られることもある。
しかし、精度の高いMRIで観察すると、脳内(皮質下白質、脳梁、大脳基底核部、脳幹、小脳)点状出血が見られることがあり、びまん性軸索損傷と判断できる。
この点状出血は、吸収されていくこともあれば、融合して遅発性の脳内血腫として増大することもある。
また、脳室内出血や大脳鎌及び脳溝に沿うくも膜下出血を伴うことがある。
これらの出現部位は、頭部打撲部位と関連する。
前述の局在性損傷と同様、びまん性軸索損傷の場合も、CTよりもMRIの方が細かい病変を描出し、数日経つとFLAIR画像で高信号として外傷性くも膜下血腫、脳内小出血、白質及び脳梁損傷などが見られる。
また、脳浮腫は、T2で高信号として描出され、出血は数日経過するとT1で高信号として明瞭に描出される。
脳実質外の所見として、受傷数日後に、硬膜下又はくも膜下に液が貯留することがあり、1割程度が慢性硬膜下血腫に発展する。
通常は自然に減少し、全般性の脳室拡大と脳挫傷部位の局所的脳室拡大が見られる。
b 慢性期
びまん性軸索損傷により白質が損傷した結果、脳実質が全体として萎縮する。
慢性期には、CTおよびMRI画像で脳溝が拡大し、第3脳室及び第4脳室を含む全脳室の拡大が生じる。
脳室拡大の確定には、外傷直後、3ヵ月後、6ヵ月後などの時系列のCT及びMRI画像が大切である。
脳室の拡大は、受傷後のほぼ3ヶ月で固定するため、6ヶ月以降もさらに脳室の拡大が進行すれば、外傷以外の原因も考慮しなければならない。
脳室拡大の程度は、びまん性軸索損傷の重症度と相関関係にあり、高次脳機能障害と密接に関連する。
重症である遷延性意識障害の患者では大脳皮質や間脳だけでなく、脳幹部の萎縮も存在する。
そして、脳室拡大を画像により判断するにあたっては、基準線を決めて、時系列的に比較する。
同じ基準で、急性期と慢性期の画像を比較することが大切であり、そのためには、受傷当日の頭部画像を入手・観察することが非常に重要である。
一般に、脳室は、加齢により拡大するが、同年齢でも個人差が大きいため、年齢別の正常例と比較することは不適当であり、受傷当日の脳画像が参照されるべきである。
なお、受傷当日の頭部画像フィルムは受傷前の脳室サイズを反映するだけでなく、外傷前の脳病変のもろもろを反映しており、外傷後に脳梗塞や脳出血性病変が認められた場合、これが外傷当日にすでにあったかどうかを確認できる。
受傷後の急性期の画像が得られない場合は、比較対象として外傷前のものとするしかなく、また、全く画像が得られない場合は外傷直後の状態(意識障害の有無)が画像検査を必要としなかったかどうかという臨牀状態とあわせて判断する必要がある。
以下、実際の画像にもとづきこれらを検証するが、上記のとおり、びまん性軸索損傷の事例においては脳室拡大が重要なポイントとされる。
c 画像による具体的検証
(1)受傷直後は、ほぼ正常脳画像の事例
受傷当日は、左側頭部に頭皮打撲創が認められ、左傍矢状部白質内に淡い白点があるも脳内所見は、ほぼ正常である。
しかし、1週間後はT2強調画像では右放線冠傍矢状部白質に高輝度点が認められ、組織断裂出血の亜急性変化と考えられる。
そして、3ヶ月後は、著明な脳室拡大が認められる。
このように、受傷直後はほぼ正常でもびまん性軸索損傷と判断できる事例である。
(2)脳梁損傷が認められる事例
受傷当日は、左頭頂部頭皮が打撲で腫れ、左脳弓に小出血があり、左側脳室沿った出血が脳梁付近にのびて、脳梁損傷が疑われる。また、右前頭葉皮質下に淡い白点がある。
半年後には、脳室の全般的な拡大が著明である。脳表やシルビウス裂のくも膜下腔も開大し、さらにその外側には硬膜下液貯留の名残が薄く残っている。
5年後には、右上前頭回の皮質下に低信号域/高信号域が拡がり、滑走性脳挫傷痕が認められる。
また、冠状断の画像では、右帯状回から脳梁にかけて低信号域が見られ、脳梁が薄くなっており、脳梁損傷である。
(3)外傷性基底核出血が認められる事例
受傷1時間後には小さかった左基底核内側の出血が、3時間後にはこれが増大して血腫となり、水平液面も認められる。
右側頭葉にくも膜下出血と脳挫傷があり、左側の脳表から大脳鎌に沿った高密度の硬膜下血腫も生じている。
3日後には基底核の出血はさらに増大し、右方向への正中構造偏移が認めれる。
そして、1ヶ月後には、血腫は低密度となり、上記偏移は改善しているが、左前頭部に硬膜下あるいはくも膜下血腫が認められる。
最後に1年後には、脳外液貯留は消失しているが、左基底核に出血痕が残存し、脳室が著明に拡大していることが認められる。
吉本智信『高次脳機能障害と損害賠償』(自動車保険ジャーナル、2004)
益澤秀明『交通事故で多発する"脳外傷による高次脳機能障害とは" 見過ごしてはならない脳画像所見と臨床症状のすべて』(新興医学出版社、2006)
三村將ほか『高次脳機能障害マエストロシリーズ2 画像の見かた・使いかた』(医歯薬出版、2006)
本多晃「高次脳機能障害の要件と損害評価」『民事交通事故訴訟・損害賠償算定基準』下巻(日弁連交通事故相談センター東京支部、第34版、2005)