高次脳機能障害においては、症状固定以後も、障害者に介護が必要な状態であれば、その介護費用の負担が生じる。もともと自賠責の後遺障害等級において、別表1が設けられ保険金額が引き上げられたのは、将来の介護費用の負担を想定してその救済を充実させる必要があったためである。医療の発達に伴って一命はとりとめたものの、介護の必要な状態となる被害者が今後も増大していくであろう現状において、将来の介護及びその費用負担は、高次脳機能障害者本人及びその家族等にとっても非常に重要な意味を持つ。
若年の障害者であれば、将来の介護費用だけで1億円を超える金額を認める裁判例も多数ある。
もっとも、高次脳機能障害においては、その後遺障害の程度に応じて、看視も含めて、どのような介護が必要となるのか個々の高次脳機能障害者により異なるものであるから、将来介護の必要性及びその内容については、個別具体的事情を勘案した精緻な判断が必要となる。
なお、「将来」とは、一般に民事訴訟においては口頭弁論終結時以後を指すが、交通事故における「将来」介護費とは、通常、症状固定後の介護費を指すため、本稿においても、「将来」とは症状固定後を意味するものとする。
ア 介護保険制度
a 介護保険制度の意義について
従来の高齢者介護サービスには、老人福祉制度と老人保健制度という二つの制度が存在したものの老人福祉制度においては行政がサービスの種類や提供機関を決定するため利用者が自由に選択できない、老人保健においては介護を理由とする一般病院での長期入院による医療費の増大が生じるといった問題点があった。
そこで、上記問題点を解消するとともに、社会全体で増大する介護費を国民全体で公平に賄うべく上記両制度を再編成した新たな介護保険制度が創設され、平成12年4月1日より施行されるに至った。
この介護保険制度の目的は、同法1条にも「この法律は、加齢によって生ずる心身の変化に起因する疾病等により介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保険医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする」と定められている。
介護保険制度の大きな特徴としては、まず社会保険方式を採用したことが挙げられる。
また、介護保険制度の採用によって、
(1)利用者本位の制度として、自らの選択に基づいたサービス利用が可能となる。
(2)高齢者介護に関する福祉サービスと医療サービスの総合的・一体的な提供が可能
(3)公的機関のほか、多様な民間業者の参入促進が図られ、効率的で良質なサービス提供が期待できる。
(4)社会的入院の是正などにより医療費の無駄が解消される
といったメリットがある((1)から(4)厚生労働省ホームページより)。
b 介護保険給付の内容
上記介護保険制度の創設によって認められている保険給付は、要介護者に対してなされる介護給付、要支援者に対してなされる予防給付、介護給付及び予防給付以外に要介護者または要支援者に対してなされる市町村特別給付の3つに分けられる。
さらに、介護給付には、
(1)居宅介護サービス費(法41条)、
(2)特例居宅介護サービス費(法第42条)、
(3)地域密着型介護サービス費(法第42条の2)、
(4)特例地域密着型介護サービス費(法第42条の3)、
(5)居宅介護福祉用具購入費(法第44条)、
(6)居宅介護住宅改修費(法第45条)、
(7)居宅介護サービス計画費(法第46条)、
(8)特例居宅介護サービス計画費(法第47条)、
(9)施設介護サービス費(法第48条)、
(10)特例施設介護サービス費(法第49条)、
(11)高額介護サービス費(法第51条)、
(12)特定入所者介護サービス費(法第51条の2)、
(13)特例特定入所者介護サービス費(法第51条の3)
がある。
また、予防給付には、
(1)介護予防サービス費(法第53条)、
(2)特例介護予防サービス費(法第54条)、
(3)地域密着型介護予防サービス費(法第54条の2)、
(4)特例地域密着型介護予防サービス費(法第54条の3)、
(5)介護予防福祉用具購入費(法第56条)、
(6)介護予防住宅改修費(法第57条)、
(7)介護予防サービス計画費(法第58条)、
(8)特例介護予防サービス計画費(法第59条)、
(9)高額介護予防サービス費(法第61条)、
(10)高額医療合算介護予防サービス費(法第61条の2)、
(11)特定入所者介護予防サービス費(法第61条の3)、
(12)特例特定入所者介護予防サービス費(法第61条の4)
があり、給付の内容は介護給付に準じている。
上記給付のうち、例えば居宅介護サービス費は職業介護人による介護費用、居宅介護住宅改修費は家屋改造費というように相当部分が交通事故によって高次脳機能障害を負った場合の損害賠償の損害項目と重なっている。
c 介護保険の受給者及び要介護認定
介護保険の受給は、「要介護者」及び「要支援者」に対してなされる。
ここで、「要介護者」とは、
(1)要介護状態にある65歳以上の者及び
(2)要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生じる心身の変化に起因する疾病であって政令に定めるもの(以下「特定疾病」という。後記参照)によって生じたものであるものをいう(介保第7条3項)。
また、「要支援者」とは、
(1)要支援状態にある65歳以上の者及び
(2)要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるものをいう(同条4項)。
上記要介護者等の定義では65歳以上の者については、介護または支援が必要となった原因は限定されていないものの、65歳未満の者については、特定疾病を原因として介護または支援が必要となったことが要求されている。
そのため、主に65歳以上の者が交通事故に遭い高次脳機能障害を残した場合に介護保険給付がなされることになる(40歳以上65歳未満の者について、高野正人『高齢被害者の介護費用損害と介護保険』交通30号99頁以下では、交通事故以前に特定疾病を持っていた者が交通事故後特定疾病を発症させ要介護状態になった場合に、「病気のせいで要介護状態になったのか、それとも事故による怪我のせいでなったのかという問題になってくるわけですが、介護保険制度の担当部局の担当官と意見交換をした結果では、交通事故がきっかけになっていても、疾病が発症した、あるいは増悪して要介護状態になったのであれば保険給付をしないわけにはいかないだろうという感触でした。
従って、45(原文ママ)から64歳の被害者の場合でも介護保健と損害賠償が関係する場合もないわけではなかろうと思われます。
ただ、現実の問題としては、例えば後縦靱帯骨化症を持っている者が交通事故による被害を受けて、事故による直接的なけがによらず、要介護度の認定を受けるまでにひどい症状が発症するかどうかというと、そこまではいかない場合が多いのではないかと思いますので、結論的に言うと、余りこういう事例は現れてこないのではないかと思います。ほとんどの場合は冒頭に申し上げましたように、65歳以上の交通事故の被害者に関してのみ、損害賠償との関係が生じてくると考えておけばいい」と述べられている)。
(1)がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る。)
(2)関節リウマチ
(3)筋萎縮性側索硬化症
(4)後縦靭帯骨化症
(5)骨折を伴う骨粗鬆症
(6)初老期における認知症
(7)進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
(8)脊髄小脳変性症
(9)脊柱管狭窄症
(10)早老症
(11)多系統萎縮症
(12)糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
(13)脳血管疾患
(14)閉塞性動脈硬化症
(15)慢性閉塞性肺疾患
(16)両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
イ 介護保険と高次脳機能障害における介護費用との関係
このように介護保険制度と交通事故による損害賠償とでは、重なり合う部分があるため、高次脳機能障害を残した被害者が介護保険制度の適用を受ける可能性がある。
そのため、被害者が加害者に対しては、損害賠償請求として介護費を請求していく一方で、介護保険給付も受給しうるという事態が生じることになる。
それでは、両者の関係をいかに解すべきか。
この点、介護保険法には、「市町村は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。」(同法21条第1項)という代位規定が存在していることから、既に介護保険給付された分については、損害賠償請求において損益相殺の対象となることには争いはないと思われる(後掲裁判例(4)(5)(6)参照)。
では、将来の介護費用と介護保険による給付との関係はどのように考えるべきか。両者の関係について、加害者側から介護保険が適用され介護保険給付を受けられるのであるから、将来の介護費用について損害額から控除すべきという形での主張が考えられる。
そこで、以下では、介護保険制度を前提とする将来の介護費用の控除が争点となった裁判例(原則として高次脳機能障害の事案)を挙げて両者の関係を検討する。
損害額から控除したもの
介護保険制度が存在することを理由として、将来の介護費用額から介護保険給付予定額を控除した裁判例としては、高次脳機能障害の事案ではないものの熊本地判平成12年3月1日(自保ジャーナル第1345号)がある。
これは、将来の介護費について、被告が平成12年4月から介護保険制度が開始し原告の負担額は月額4万2420円となることからそれを基準に計算すべきと主張したものである。
裁判所の判断
「平成12年4月1日からは、介護保険制度が施行されることにより、本人は施設介護費用の1割を負担することになり、右介護費用は最高で日額9、740円であることが、それぞれ認められる。
そうであれば、症状固定から内藤病院に入院していた平成11年9月29日までの16か月分は、完全看護であるから紙おむつ代だけで、その費用は、合計16万1、280円となる。
同日から介護保険制度が施行されるまでは、入所費用合計16万2、200円と家族会費500円、紙おむつ代1万0、080円、及び国民健康保険料の増加分1万2、000円の月額合計18万4、780円がかかることになり」「平成12年3月までの費用は、110万4、780円となる。」「次に介護保険制度が施行されてからは、前記日額の30倍の1割である2万9、920円、家族会費500円、入所に伴う国民健康保険料の増額分1万2、000円の月額4万2、420円がその費用となり、原告の症状固定時の平均余命が約13年で、症状固定時から2年後に介護保険制度が施行されること、将来分の中間利息の控除をホフマン係数を用いて、算出すると、405万1、000円(千円未満切捨て)が損害となる。
結局、合計531万7、060円が介護費用となる」と判示した。
上記裁判例は、介護保険制度が始まる1ヶ月ほど前に出された判決であるが、その中で、介護費用の算定にあたり、介護保険制度が開始されるまでの期間と開始されてからの期間に大きく分けた上で、開始されてからの将来の介護費用について、介護保険からの給付予定分を除く自己負担分1割のみを損害とした。
損害額からの控除を否定したもの
【裁判例(1)】
神戸地判平成12年10月10日(交民33巻5号1640頁)
事故時74歳女子が見当識障害、記銘力低下等5級2号後遺障害を残した事案
裁判所の判断
「被告は、原告が自ら進んで申告しない限り、被告から損害賠償金を取得し、三田市から介護保険給付を取得することになり、原告は2重に取得することになると主張するが、原告が自ら進んで申告するか否かは現時点で断定する資料がないところ、被告が三田市に情報提供して、介護保険給付と損害賠償金の清算、調整をすることもできると思われるから、原告が2重に取得すると断言できるものではなく、被告の右主張も失当である」と判示した。
上記裁判例は介護給付の申請をするか否かが被害者の意思に委ねられていることを前提として将来給付を受けることが確実ではないこと、介護給付と損害賠償との調整も可能であることを理由として控除を否定した。
【裁判例(2)】
大阪地判平成12年10月30日(自保ジャーナル第1403号)
事故時5歳男子が中枢神経及び精神障害の併合2級の後遺障害を残した事案
被告の主張・・・原告が平成67年には65歳になり介護保険制度の適用があるのだから平成67以降は自己負担額以上の介護費を認めるべきではない
裁判所の判断
「平成67年以降に、現行の介護保険制度がそのまま維持されているとは認め難く、被告らの主張は採用できない」とし、将来の不確実性を理由として控除を否定した。
【裁判例(3)】
東京地判平成15年8月28日(自保ジャーナル第1525号)
21歳女子会社員が高次脳機能障害等で1級3号を残した事案
被告の主張・・・原告が65歳となった平成52年以降は介護保険制度の適用があることからそれ以降は自己負担額以上の介護費を認めるべきではない。介護費の算定にあたっては公的介助の存在を斟酌すべき。
裁判所の判断
上記被告の主張に対して、裁判所は「平成52年以降に現行の介護保険制度がそのまま維持される保障はないことからすれば(平成17年に介護保険制度の見直しないし再検討が予定されていることは、被告らが自ら主張するところである。)、給付が確実に受けられるとは到底いい難く、損害額から控除することはもとより、介護費算定の一事情として斟酌することも相当ではないから、被告らの主張は理由がない。」と述べて介護保険を前提とする控除を否定した。
もっとも、将来介護費の金額の算定においては、現在の介護費を原告主張のとおり日額4万円を下らないと認定しつつも、介護保険制度が検討・見直しを予定されていること、今後介護方式が多様化し、安価な介護方式が提供されることが予測されること、原告が死亡するまで現在の介護水準が維持される蓋然性は低いことを考慮し、「損害の控えめな算定」という観点から、上記4万円という金額を基準として将来の介護費を算定することは被告に酷な結果をもたらすという理由で、日額4万円ではなく2万4000円と認定した。
【裁判例(4)】
福岡地判平成17年7月12日(自保ジャーナル第1612号)
事故時69歳女子が高次脳機能障害等1級後遺障害を残した事案
被告の主張・・・原告ら主張の職業付添人の費用を将来の介護費用算定の基礎とすることは、必ずしも適切な将来の介護費用の算定とはいえない。
今後介護保険の給付割合や保険適用の範囲が変更されれば、介護ビジネスにも様々な影響があり、付添い以外の介護サービスや廉価で利用できる介護施設等が充実すれば、職業的付添いよりもそちらを選択することも考えられ、介護産業が発展し、介護の内容、程度による料金体系の細分化や合理化も考えられる。
裁判所の判断
「実際に要する実費全額を損害と認めるべきであり、また、未だ支給が確定していない将来の介護保険給付(予定)額は控除すべきでないから(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)」「日額2万5、392円を相当と認める」として、後述する最高裁判例を引用した上で、支給が確定していないことを理由として控除を否定した。
その上で、被告の主張に対して、「予測される原告花子の生存期間である今後十数年の間に、各種介護サービスがより廉価で利用できるようになる具体的な見込みが存することを認めるに足りる証拠はなく、現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する実費を基礎として将来の介護費用を算定せざるを得ないというべきである」と判示して将来介護費の算定においても実費額を基礎とした。
なお、上記裁判例の「未だ支給が確定していない将来の介護保険給付(予定)額は控除すべきでない」という言い回しからは、既に支給された介護保険給付については控除を前提にしているものと思われる。
他にも高次脳機能障害の事案ではないものの参考になる裁判例として、
【裁判例(5)】
大阪地判平成13年6月28日(自保ジャーナル第1431号)
(事故時40歳男子が1級3号四肢麻痺障害を残した事案)では、「介護保険による給付を受けるには介護認定審査会による要支援、要介護認定を受ける必要があり、要介護の程度によりサービスの支給限度額が定められているから、原告が当該制度を利用する意思を有していたとしても、当該制度を利用できるかどうか、どの程度の給付を受けることができるかは、必ずしも明らかとはいえないことに加え、そもそも介護保険法21条が、第三者の行為によって給付事由が生じた場合に、市町村から当該第三者に対する代位請求及び支給停止の規定を設けていることからすれば、現実に給付が支給された場合にそれが損害の填補として損益相殺の対象となるものと認める余地はあるものの、現実に支給されていない将来の給付見込分について、第三者が損害賠償の責を免れるものと解すべき理由はない」としている。
さらに、
【裁判例(6)】
さいたま地判平18年10月18日(自保ジャーナル第1675号)
(事故時68歳女子が四肢麻痺等1級1号障害を残した事案)では、「介護保険は、障害者を保護するための制度であり、これを利用するかどうかは、その障害者の側で選択すべき問題であるから、現に介護保険の適用を受けていない被害者に対し、加害者が、介護保険の適用が受けられるから全額の損害賠償は認められない旨の主張をすることは許されない」「被告らは、原告花子は、Dからの公的補助が可能であるから、この分を将来の介護料から控除すべきであると主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、原告花子は、上記機構から未だ介護給付を受給していないと認められるところ、このように、介護給付を受けていない者に対し、上記制度の存在を指摘して、将来の介護料の減額を主張することも許されないというべきである」と判示している。
ウ 検討
裁判例を検討すると、介護保険制度の存在を理由として明確に金額を控除した代表的なものとしては前掲熊本地裁判決があるものの、多くの裁判例では控除を否定している。
この点に関し、不法行為と同一の原因によって被害者が第三者に対して取得した債権の額を加害者の賠償額から控除することの要否及び遺族年金の額を加害者の賠償額から控除することの要否が問題となった最判平成5年3月24日(民集47巻4号3039頁)では、「不法行為と同一の原因によって被害者又はその相続人が第三者に対する債権を取得した場合には、当該債権を取得したということだけから右の損益相殺的な調整をすることは、原則として許されないものといわなければならない。
けだし、債権には、程度の差こそあれ、履行の不確実性を伴うことが避けられず、現実に履行されることが常に確実であるということはできない上、特に当該債権が将来にわたって継続的に履行されることを内容とするもので、その存続自体についても不確実性を伴うものであるような場合には、当該債権を取得したということだけでは、これによって被害者に生じた損害が現実に補てんされたものということができないからである。」「したがって、被害者又はその相続人が取得した債権につき、損益相殺的な調整を図ることが許されるのは、当該債権が現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合に限られるものというべきである。」と判示し、損害額からの控除を原則否定した。
この裁判例の考えに従うと、原則として将来の介護保険給付を理由とする控除はできないものの、介護保険給付が例外的に「現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるということができる場合」には控除されうるという判断になるものと思われる。
そこで、介護保険給付が上記例外的場合にあたるかが問題となる。
この点について、参考になる裁判例としては、札幌地判平成13年8月23日(自保ジャーナル第1432号)が挙げられる。
これは、事故時49歳女子が遷延性意識障害による1級3号後遺障害を残した事案であるが、被告からの原告が65歳となった時点以降の介護費については介護保険法の適用を受ける蓋然性が高いとして同法の適用を考慮すべきという主張に対し、裁判所は「不法行為と同一の原因によって被害者が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきところ(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁)」と前記最高裁判決を引用した上で、「給付が履行されるのは10年以上も先のことであり、どのような給付がされるかも未確定であるから、本件においては、当該債権が現実に履行されたのと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるとは到底いえない。
したがって、本件においては、介護保険法による給付を前提として、被告の賠償額を定めるのは相当ではないから(その結果、介護保険法による給付との調整は、同法21条2項により、被告が損害賠償をした価額の限度で市町村が保険給付を行う責めを免れる方法により、されるべきことになる)、被告の上記主張は採用できない。」と、前記最高裁判決の規範をあてはめて例外的場合にもあたらないとして控除を否定した。
上記裁判例からも伺えるように、介護保険による認定は将来のことであり、被害者が介護保険の適用を受け得る65歳になったときにどのような制度になっているか不確実なものであること、給付を受けるか否かは受けようとする者の意思に係っているという点からは、介護保険給付は前記最高裁判決の示す例外的な場合にあてはまらないと考えられる。
また、介護保険法21条では代位を定めているところ、将来の介護費用について、介護保険制度を前提に損害額から控除するのならば、被保険者はそもそも自己負担分以外には第三者に対し損害賠償請求権を有さないことになるため、将来介護費用については同条に基づく代位ができなくなり、同条の適用場面が大幅に制限されることになりかねないことから、当然に控除されるとする見解は妥当ではないといえる(裁判例(5)参照)。
この点、前掲高野正人『高齢被害者の介護費用損害と介護保険』交通30号107頁以下では、「もし、本人負担分だけが損害だということになってしまいますと、介護保険給付から出る部分については損害がないということになります。損害がないのに介護保険の被保険者が損害賠償請求権を取得できるわけがなく、従って、存在しないものを保険者が代位取得することもできなくなり、結局介護保険給付を行った保険者は加害者から取り立てられないという結論になってしまいます。保険給付をしたらそのかわりに損害賠償請求権を取得するという制度であるからには、保険給付が出るのだから損害がないという論法はとれないはず」とする。
したがって、介護保険制度の存在のみをもって、損害から控除し負担部分のみを損害とすることは妥当ではないと考える。
ア 介護場所
高次脳機能障害者が介護を受ける場所としては、障害者の自宅あるいは近親者の居宅での「在宅介護」、病院や社会福祉施設などの「施設介護」に大別することができる。どこで介護を受けるかは、障害者の意思、障害の内容、程度、あるいは家族の事情などによって左右されることとなるが、一般的に、在宅介護と施設介護のメリット、デメリットは以下のように考えられている。
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メリット | デメリット |
| 在宅介護 |
・障害者本人の精神的安定 ・個々の障害に応じた対処が可能 |
・近親者の介護の負担 ・介護費用の増大(自宅改造が必要な場合も) |
| 施設介護 |
・専門の施設であれば適切な対処も可能 ・比較的低額 ・近親者の負担の軽減 |
・入所できる期限が定められている場合がある ・他の入所者とのトラブル ・個々の障害に応じた対処ができない施設もある |
以上のように、それぞれメリット、デメリットがあるものの、損害額の算定という観点からすると、在宅介護の方が一般に高額な金額となる。
イ 介護主体
介護を行う主体としては、大別して、近親者と職業介護人とが考えられる。このことは在宅介護であれば当然であるが、施設介護においても、その施設が個々の障害者にあった介護体制が十分にとられているようなものでない場合には、近親者あるいは職業介護人がその施設で介護をしなければならないことも考えられる。また、平日は近親者に仕事があるため職業介護人が介護を行い、休日には近親者が介護を行うといった態様も多くみられる。
近親者による介護と、職業介護人による介護のメリット、デメリットは以下のように考えられる。
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メリット | デメリット |
| 近親者 | ・障害者本人の精神的安定 |
・慣れない作業による精神的・肉体的負担 ・近親者が仕事を辞めなければならないこともある |
| 職業介護人 | ・適切な介護が期待できる | ・介護費用の増大 |
損害額の算定という観点からは職業介護人の方が一般に高額となる。
もっとも、職業介護人の費用については、必ずしもその実費相当額が裁判上認められているわけではない。裁判例においては、「今後介護サービスの充実により、現在よりも廉価で広範な介護サービスが受けられるようになる可能性を否定できない」(大阪地平19・6・20自保ジャーナル第1705号)、「今後の介護保険制度の動向やかなり遠い将来の介護費の額を現時点において的確に予測することは困難である」(東京地平16・6・29日自保ジャーナル第1551号)などとして、低額に抑えられがちである。
ウ 常時介護、随時介護、看視
また、個々にその症状の異なる高次脳機能障害者においては、介護の具体的な内容(肉体的負担を伴う「介護」か、それほど肉体的負担を伴わない「看視」か)及び介護に要する時間(「常時」か「随時か)も、その損害額の算定にあたって重要な要素となる。もっとも一律に、看視だから介護費用が低くなるというものではなく、「看視、声掛けについて」でも触れているように、「看視」が多大な精神的緊張を伴うものである以上、その必要とする看視の程度によっては介護費用が高額となることもある。
高次脳機能障害者に対する介護費用は、平均余命まで認められることとなるが、症状固定時の介護体制がそのまま障害者の平均余命まで維持されていくとは限らない。
そのため、将来の介護費用としての損害額を正確に算出するには、現状の介護体制を踏まえ、将来の介護体制がどのように変化していくのかを見極める必要がある。以下、介護費用が一般的に増額することとなる、ア施設介護から在宅介護へ、イ近親者介護から職業介護人による介護への変更について検討する。
ア 施設介護から在宅介護へ
現状として施設介護が行われているにもかかわらず、在宅介護を前提とした費用を請求する場合には、施設介護から在宅介護へ移行する蓋然性(以下「在宅介護の蓋然性」という。)が認められる必要がある。裁判例上、在宅介護の蓋然性は以下のような事情を考慮して判断されている。
a 施設退所の時期・蓋然性、施設の性格
入所中の施設等が短期の入所しかできないような場所であれば、在宅介護を肯定する方向につながる。
b 在宅介護の可否に関する入所中の施設又は医師の判断
障害者の病状に対してそもそも在宅介護が可能であるかどうか、障害者の状況を具体的に把握している入所中の施設又は医師の判断は信用性が高く、在宅介護の蓋然性の判断要素となる。
c 被害者の状況・意向
障害者であってもその本人の自己決定権を尊重すべきであるし、また、本人の気持ちを尊重することがその病状の改善につながることも考えられるため、障害者自身に自宅へ戻りたいという意向があるのかどうかは重要な判断要素となる。
d 在宅介護に向けた準備状況
在宅介護に向けて、既に何日か在宅介護を試していれば、その実績から在宅介護を肯定する方向へつながる。また、在宅介護に際して自宅改造が必要な場合に、自賠責からすでに数百万円を受け取り、現実に自宅改造に着手しているようなときには在宅介護を肯定する方向へつながる。
e 近親者の意向・被害者を受け入れる家庭の状況
介護に当たる近親者に平日は仕事があり介護ができない場合であっても、職業介護人に依頼することで解決可能である場合には、在宅介護を否定する方向へ直接つながるものではない。
f 施設介護と在宅介護の比較
在宅介護の方が施設介護よりも症状改善や認知症防止に効果があるという考えや、施設介護では不特定多数の者から院内感染の危険があるということを重視すると在宅介護を肯定する方向へとつながる。
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裁判例 さいたま地判平成17年2月28日 (自保ジャーナル第1586号) |
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| 年齢 | 72歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、外傷性くも膜下出血、左大腿骨頸部骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害等1級3号 |
| 被害者側の状況 |
左不全麻痺(左股関節拘縮)、高次脳機能障害などの後遺症により寝たきり状態。 現在介護老人保健施設に入所中。 |
| 介護内容 | 常時介護 |
| 認定された介護費用 | 施設介護を前提に月額45万1092円 |
| 原告の請求 | 年間240日(平日):日額合計1万6634円(職業介護人日額1万4634円、近親者日額2000円) |
| 年間125日(休日):近親者介護日額1万円 | |
本裁判例は、
(1)被害者(原告花子)が現在、介護老人保険施設に入所していること、
(2)原告花子の要介護度は5であり、リハビリを辞めるとなおレベルが低下する恐れがあること、
(3)同施設の入所・通所・ショートステイ判定会議の会議録の希望理由欄には「在宅介護困難、少しでもADLの向上することを希望」と記載されているが、これは同施設において原告花子の入所時に原告一郎から聞いたADLの状態(寝たきり、全介助)、及び長男別居、次男独身で働いているという家庭環境を考慮して、在宅介護は極めて困難と判断し記載したものであること、
(4)原告花子の要介護度は、入所から1年経過した時点でも5と不変であり、リハビリ等の訓練を受けているものの、ADLの向上は全く見られないが、著明な低下も認められず、少なくとも入所時にあった臀部の褥創は改善傾向にあり、レベル維持には同施設での介護が有用であったこと、
(5)原告花子の入所後、家族から原告花子の在宅介護の申し出はなかったこと、
(6)同施設では、在宅介護が極めて困難と思われる症例に関しては、一般的に入所6か月をメドに他施設へ移って貰うことを家族に考えて貰うのを通例としており、原告花子については、ADLの向上もなく全介助の状態であるため他施設での介護が妥当と考えていたこと、
(7)平成15年11月1日現在では、原告花子のレベルは低下傾向にあり、かつ、脳挫傷による器質性精神病(痴呆)があり、昼夜問わず大声(奇声)を出すなど問題行動が出てきており、現状では、別の病院の精神科療養型病床群の入院予約となっていること、
(8)同施設では、現時点では、家庭状況を考えると介護度5の範囲内のみのサービスでは対応しきれないと考えていること
を認定した上で、
「将来の介護費用は、被害者において症状固定後、現実に支出すべき費用を補填するというものであるから、その算定に当たっては、症状固定時から口頭弁論終結時までの被害者の介護の実態を踏まえて、将来の介護状態について相当程度の蓋然性に基づいた合理的な算定をすべきこととなる。
そして、本件において原告花子の症状固定後、口頭弁論終結時までの介護の実態は、上記の認定のとおりであり、この事実及び原告花子の身体的状況及び家庭状況に照らせば、原告花子の将来の介護につき、在宅介護の蓋然性は極めて低く、現に、原告春夫及び同一郎から、同施設に対し、在宅介護の申し出がなされた事実がないこと、既に、自賠責保険から後遺障害分として2,534万円が支払われているにもかかわらず、原告花子の自宅の改造をしたうえ、介護人等を付した在宅介護を行った事実がないことを総合勘案すれば、原告花子の将来の介護につき、在宅介護を前提とすることは、損害の算定における合理性を欠くものというべきである。よって、原告花子の将来の介護費用を考えるについては、施設介護を前提として算定すべきこととなる。」
と判示した。
上記裁判例では、
(1)入所施設が、そもそも在宅介護ではなく他の施設での介護が妥当と考えていること、
(2)入所後、家族からの在宅介護の申出はなかったこと、
(3)自賠責保険から後遺障害分として2,534万円が支払われているにもかかわらず、自宅の改造をし、介護人等を付した在宅介護を行うという在宅介護に向けた準備をしていないこと
などを総合的に判断し、在宅介護の蓋然性を否定している。
イ 近親者介護から職業人介護による介護へ
近親者介護から職業介護人による介護への変更についても、職業介護人による介護が行われる蓋然性が認められなければならない。
裁判例においては、近親者による介護が実質的に可能と思われる年齢である67歳までは近親者介護の日額で計算し、それ以降の平均余命までの期間について職業介護人による費用で計算されることが多い(後記裁判例(1)、(3)、(5))。
また、介護体制が変更することを考慮しつつも、平気余命まで全期間あるいは一定期間について同じ日額で計算するものもある(東京地平16・1・20自保ジャーナル第1529号等)。
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裁判例 東京地判平成16年1月20日 (自保ジャーナル第1529号) |
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| 年齢 | 22歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 急性硬膜下血腫、脳挫傷、右肘頭骨折、左手関節骨折、肺挫傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害等1級3号、4級視力障害等で併合1級 |
| 被害者側の状況 |
高次脳機能障害(記憶障害、理解力・判断力低下等)、左半身の完全麻痺・拘縮等の後遺障害 日常生活動作(ADL)が自立していないため、その介護は主に被害者の父が行っている。 |
| 介護内容 | 常時介護 |
| 認定された介護費用 |
症状固定日から口頭弁論終結時まで:近親者日額8500円 口頭弁論終結後、被害者平均余命まで:日額1万5000円 |
| 原告の請求 |
介護人父67歳まで: (1)年間240日(平日):職業介護人日額2万円 (2)年間125日(休日):近親者介護日額1万円 介護人父67歳以降:職業介護人日額2万円 |
本裁判例は、被害者(原告太郎)の症状、同人に対してなされている介護の現状、近親者付添人の職業・年齢等の諸事情から、介護方法につき細分化して検討すると、原告太郎の余命終期である53年間を大きく4つに分けて考察するのが相当であるとし、近親者の年齢、就労状況に応じて、
(1)近親者による介護が行われる期間、
(2)主として職業付添人が中心となり、補助的に近親者付添人による介護が併用される期間
(3)主として近親者付添人が中心となり、補助的に職業付添人による介護が併用される期間
(4)職業付添人による介護が行われる期間
に分けた上で、それぞれの期間にかかる介護費用について介護を行う者、介護の具体的内容等から、
(1)の期間につき日額8500円、
(2)の期間につき日額2万1000円、
(3)の期間につき日額1万1000円、
(4)の期間につき日額2万7000円
としつつ、「今後、介護方式が多様化されることが予想され、また、原告太郎のように、常時の監視を主とする介護サービスについては、介護費の変化を正確に予測することは極めて困難であり、原告太郎の推定される余命の長きにわたって現在の介護費の価格水準がそのまま維持される蓋然性は低いというべきである。
そうすると、損害の控えめな算定という観点からすれば、原告太郎の余命終期までの将来介護費につき細分化して算定することは相当ではなく、近親者による付添が難しくなる平成16年7月5日から原告太郎の余命終期である平成65年までの49年間につき、職業付添人と近親者付添が併用される場合及び職業付添人による場合の各介護費を全体を通じて検討するとき、上記期間における付添介護費の日額は、少なくとも1万5000円と認めるのが相当である。」
とし、(1)の期間以降の職業介護人の介護が加わる期間については定額の金額を認定した。
ア 認定される将来の介護費用の基本額
財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準2008年版 上巻』によれば、「職業付添人は実費全額、近親者付添人は1日につき8000円。
但し、具体的看護の状況により増減することがある。」とされ、裁判例においても、後遺障害等級別表第1第1級あるいは第2級に相当する事案においては、近親者介護費を1日につき8000円とする裁判例が多い。
一方、職業介護人については、1日あたり1万5000円程度までは認める裁判例が増えてきている。
イ 裁判例
a 高額に認定された裁判例
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裁判例(1)名古屋高判平成19年2月16日 (自保ジャーナル第1688号) |
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| 年齢 | 5歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、外傷性脳内血腫、左撓骨骨折、症候性てんかん、気管支喘息、遷延性意識障害、両肩拘縮、左視神経損傷、右視神経萎縮、両結膜炎、両足変形 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害等1級3号 |
| 被害者側の状況 |
脳挫傷後遺症、てんかん、左片麻痺、麻痺性構音障害、左顔面神経麻痺、精神遅滞、左撓尺骨癒合につき変形癒合、両眼の視神経萎縮の後遺障害 高次脳機能障害により知能年齢(精神年齢)が3歳程度、自制力に乏しく自己の行動の危険性について十分な理解力はない、補助具や介助なしでの独歩はできない、食事動作は不十分ながら辛うじて自立、衣服の着脱、排泄には介助を要する。 12歳で身長157cm、体重55kgと体格が良いため身体介助には体力を要し、職業介護人は2人1組で介護に当たっている。 |
| 介護内容 | 常時の見守り及び身体介助 |
| 認定された介護費用 |
被害者18歳まで:日額合計1万5000円(近親者日額5000円、職業介護人日額1万円) 介護人母67歳まで:日額合計2万円(近親者日額5000円、職業介護人日額1万5000円) 介護人母67歳以降:職業介護人日額3万円 |
| 控訴人(第1審原告)の請求 |
被害者の母親が日中働くことを前提に、 (1)被害者が養護学校在学中の介護費用は曜日によって異なり、近親者日額2500円から5000円、職業介護人日額7500円から2万1610円、 (2)被害者卒業後母親が67歳に達するまで近親者日額2500円、職業介護人日額2万1610円、 (3)母親67歳以降、職業介護人日額3万5310円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、近親者介護人である母(控訴人花子)が現在は被害者(控訴人太郎)の介護と仕事を両立させつつより多い収入を得るため夜間勤務の仕事をしているものの、夜間控訴人太郎が1人になることへの不安や控訴人花子が病後の体であることから来る健康上の不安から、控訴人太郎に職業介護人を付すなどして自分は日中の勤務に戻りたいと考えていることなどを認定した。
また、控訴人花子一人による介護を長期化させることは控訴人花子の健康面から著しい困難が伴うものと認められるとした。
控訴人太郎の将来の介護費用は、まず「症状固定時から控訴人太郎が養護学校高等部を卒業する18歳までの11年間」については、日中の養護学校に通学していない時間帯に職業介護を付し、夜間早朝や休日は親族である控訴人花子が介護することを前提に介護費用を認定した。
その費用については、
(1)控訴人らの依頼により介護事業者が試算した見積もりは他社との比較がなされていないこと、
(2)現在の豊田市の援助によるヘルパー派遣が1時間当たり約2,296円であること、
他方、(3)養護学校には休業期間もあること
を考慮して、職業介護につき1日当たり1万円、控訴人花子の介護につき1日当たり5,000円とした。
次に「控訴人太郎が養護学校高等部を卒業後、控訴人花子が67歳に達するまでの24年間」については、日曜日を除き自宅で朝8時から夜7時まで職業介護を付して、夜間早朝や休日は控訴人花子が介護することとして、職業介護につき1日当たり1万5,000円、控訴人花子の介護につき1日当たり5,000円とした。
更に、「控訴人花子が67歳に達した以降」は、全日について職業介護人による介護が必要となるものとし、その額は、1日当たり3万円とした。
【本裁判例の特徴】
介護体制の変化に対応した介護費用を認めているだけでなく、被害者の病状とその体格から職業介護人が2人1組で介護に当たっている点を重視し、実費としてかかる日額3万7075円まではいかないものの、比較的高額な介護費用を認めた。
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裁判例(2)福岡地判平成17年7月12日 (自保ジャーナル第1612号) |
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| 年齢 | 69歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 急性硬膜下血腫、脳挫傷、開放性頭蓋骨骨折、両肺挫傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害等1級1号 |
| 被害者側の状況 |
重篤な高次脳機能傷害のため、記銘力低下、歩行障害、幼児性が著明で易興奮性あり。 被害者は日曜を除く週6日、デイサービスを受けている。 近親者介護人(被害者の長男)は自営業者で、仕事をセーブして時間を捻出し、被害者の身体介助等を行っている。 |
| 介護内容 | 常時介護 |
| 認定された介護費用 |
平日・土曜日:日額合計2万9392円(近親者日額4000円、デイサービス実費及び職業介護人日額2万5392円) 日曜日:近親者日額8000円 |
| 原告の請求 |
平日・土曜日:職業介護人日額2万5392円及び近親者日額1万円 日曜日:近親者介護であるが、介護を行うに当たって受ける肉体的・精神的疲労の度合いは、職業介護人の比ではないとして平日・土曜日の近親者及び職業介護人の日額合計と同じ日額3万5392円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
本裁判例は、まず(1)デイサービス・職業介護人による訪問介護の費用について、被告からの、今後介護保険の給付割合や保険適用の範囲が変更されれば、介護ビジネスにも様々な影響があり、付添い以外の介護サービスが廉価で利用できる介護施設等が充実すれば、職業的付添いよりもそちらを選択することも考えられ、介護産業が発達し、介護の内容、程度による料金体系の細分化や合理化も考えられるとする主張に対して、「予測される原告花子の生存期間である今後十数年の間に、各種介護サービスがより廉価で利用できるようになる具体的な見込みが存することを認めるに足りる証拠はなく、現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する実費を基礎として将来の介護費用を算定せざるを得ないというべきである。」とし、実際に要する実費全額を損害と認め、また、未だ支給が確定していない将来の介護保険給付(予定)額は控除すべきでない(最高裁平成5年3月24日大法廷判決・民集47巻4号3039頁参照)とした。
一方、(2)近親者介護費については、原告からの、職業介護人による介護と近親者介護とで介護費に差異を設ける根拠はない旨の主張に対して、「近親者による介護は、介護のプロとして専門的サービスを供給する職業的介護との質的な違いがあることは否定できず、金額に差があることはやむを得ないものというべきである。」とし、デイサービス・職業介護人による訪問介護が利用できない日曜日については、近親者介護費を日額8000円とし、デイサービス等を利用できる曜日においては、近親者介護費を日額4000円とした。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、他の裁判例では実費よりも低額に抑えられがちな職業介護人の介護費用について、各種介護サービスがより廉価で利用できるようになる具体的な見込みが存することを認めるに足りる証拠はないとして、現時点で利用可能な介護サービスを使用する場合に実際に要する実費を基礎として将来の介護費を算定した点及び、近親者による介護と職業的介護との認定介護費用の差について、両者に質的な違いがあることは否定できず、金額に差があることはやむを得ないとしている点に特徴がある。
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裁判例(3)東京地判平成15年8月28日 (自保ジャーナル第1525号) |
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| 年齢 | 21歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 開放性脳損傷、脳挫傷、右眼球破裂、外傷性てんかん等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害1級3号等 |
| 被害者側の状況 |
右大脳半球の広範な脳萎縮及び脳室拡大、左前頭葉の脳挫傷、左不全麻痺、左知覚鈍麻等の後遺障害 精神年齢(MA)8歳2か月(生活年齢〔CA〕23歳)知能指数35 |
| 介護内容 | 生活のほとんどの場面において介助までは要しないが、常時の監視ないし促しは必要 |
| 認定された介護費用 |
介護人母67歳まで:日額合計1万1692円(近親者日額8000円、職業介護人日額3692円) 介護人母67歳以降:職業介護人日額2万4000円 |
| 原告の請求 | 被害者の介護の程度は常に職業付添人の介助を要する程度に重いものであり、被害者の両親には被害者の介護は不可能である。 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、被告らが選定した介護業者が見積もった金額などから、被害者(原告花子)に対する職業付添人による介護費は、1日当たり13時間の介護を要することから、最低でも1日に2人の職業付添人が必要となり、現時点では、1日当たり4万円を下回ることはないものと考えられるとしつつも、
「今後、介護方式が多様化されることは容易に予想されるところ、多様化された介護方式の中では、原告花子のように、肉体的な負担は比較的少ないが常時の監視を主とする介護サービスについては、肉体的な負担の大きい介護よりも介護費としては安価な介護方式が提供されるであろうことは、合理的に予測される。そうであれば、将来の制度の見直し等による介護費の変化を正確に予測することは極めて困難ではあるものの、原告花子が死亡するに至るまで現在の介護費の価格水準がそのまま維持される蓋然性は低いというべきであり、損害の控えめな算定という観点からすれば、原告らの主張する金額を前提として原告花子の死亡までの将来の介護費を算定することは、被告らに極めて酷な結果をもたらし、妥当ではないといわざるを得ない。」とした。
さらに、原告らが一時金による損害賠償を求めるのであれば、原告花子の症状固定時における平均余命である62年もの長きにわたって現在の介護費の価格水準が維持されるか否かという蓋然性に基づいて判断せざるを得ないとし、上記のとおり、その蓋然性は低いものと考えられるとした。
以上の事情を総合考慮し、職業介護人のみによる場合の原告花子の将来の介護費を、4万円の6割に相当する1日当たり2万4000円を基礎として算定するのが相当であると判示した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告花子の病状から、1日に2人の職業介護人が必要であることを認め、現時点では介護費用として1日4万円を下回ることはないとしつつも、今後、介護方式が多様化されることは容易に予想されるところ、肉体的な負担は少ないが常時の看視(監視)を主とする介護サービスについては安価な介護サービスが提供されるであろうことは合理的に予測されるなどとして、その6割に相当する金額での介護費を認めたものである。前記裁判例(2)とは、将来的に安価な介護サービスが提供されることが合理的に予測されるか否かでその判断が異なったため、実費を基礎として算定されるかの判断も異なることとなったと思われる。
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裁判例(4)さいたま地判平成18年8月4日 (自保ジャーナル第1682号) |
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| 年齢 | 59歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | びまん性軸索脳損傷、左大腿骨頸部内側骨折、右恥骨骨折、右腸骨骨折、右第8肋骨骨折、脳挫傷後異所性仮骨、頭部顔面外傷、下顎骨折等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害1級3号、下肢関節用廃8級7号 |
| 被害者側の状況 |
排泄傷害、感情失禁、記銘力・知能・見当識の低下等の後遺障害 移動には車椅子を用いる必要があり、屋外等での移動にはさらに助けを必要とする。 経済的な事情から、被害者の長男(原告一郎)は職業介護人を依頼することができず自らが介護しているが、職業介護人を依頼することができた場合には、知り合いの会社に就職する予定を有している。 |
| 介護内容 | 常時介護 |
| 認定された介護費用 |
年間125日(休業日):近親者介護日額1万円 上記以外の年間240日:職業介護人日額2万円(近親者介護分も含む) |
| 原告の請求 | 被害者の後遺障害は重篤であり、日常生活のほとんどの場面において付添の必要性があるとして、上記認定された介護費用と同額を請求。 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、被害者(原告花子)及び原告一郎が居住する県内の介護業者の料金表から、職業介護人の介護費用としては、1日1万9106円がかかることを認定した。
そして、原告一郎の経済状態及び他に家庭内に原告花子を介護することができることがいないため、原告一郎が勤務先を退職して原告花子の介護に当たっており、本件事故の損害についての賠償金の支払いがなされた場合には就労を始める予定があることなどから、原告一郎が、原告花子の平均余命年数の27年間にわたって、就労をせずに原告花子の介護に当たることを前提として、将来の介護料の損害額を算定することは相当とはいえないとした。
以上を前提として介護費用については、
(1)原告一郎が就労している場合には、一般的に休業日とされている年間125日を除く年間240日については、職業介護人による介護が必要であり、職業介護人を依頼する日の介護料は、午前8時から午後7時までの介護についての費用が、合計1万9106円程度かかり、上記の時間帯以外も、原告一郎などの近親者による介護が必要であることを考慮すると、1日2万円と認めるのが相当であるとし、
(2)原告一郎などの近親者のみで介護することが可能な日の介護料は、原告花子に対する介護の質、量及び拘束時間などを考慮すると、1日当たり1万円と認めるのが相当であると判示した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、現在介護に当たっている近親者が、賠償金の支払いがなされた場合には就労を始める予定であるとし、近親者から職業介護人への介護人の変更を認めたものであり、さらにその金額も、近親者の介護が必要な時間帯があることもふまえ、職業介護人の実際の介護費用よりも高額な介護費用を認めたものである。
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裁判例(5)大阪地判平成20年4月28日 (自保ジャーナル第1750号) |
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| 年齢 | 25歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 右側頭部脳挫傷、びまん性軸索損傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害等で併合1級 |
| 被害者側の状況 |
社会生活のあらゆる場面で常識的な対応ができないばかりか、感情の抑制ができず、突然怒り出し、興奮しては暴言を吐いたり、身近な人に暴行を加えたりすることがある。 ADL(日常生活動作)については一応確立しており、食事等の日常生活動作や、一定範囲での外出は独りですることができる。 現況では、介護はすべて被害者の両親が行っている。 |
| 介護内容 | 随時看視や見守り |
| 認定された介護費用 |
介護人母67歳まで:近親者介護日額3500円(一部職業介護人) 介護人母67歳以降:職業介護人日額1万5000円 |
| 原告の請求 |
全生涯にわたって常に介護が必要であり、 (1)職業介護人の介護費用は、9時間半の場合は2万1266円、17時間の場合は3万5110円、 (2)近親者の介護費用は少なくとも、7時間半で1万円、17時間で1万7000円を相当とすべきである。 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、被害者(原告太郎)の高次脳機能障害の症状の程度について、
(1)単純作業であれ、原告太郎が就労することは困難であるとしつつ、
(2)生活範囲が住居内に限定される程度にまでは至っていない
とし、自賠責後遺障害等級2級に該当する程度に至っているとはいまだ認めることができず、別表第2の3級3号に該当する認定した。
そして、原告太郎の後遺障害の内容に照らせば、原告太郎は症状固定後も就労は不可能であり、社会的適応力に欠けるものの、日常生活はおおむね独りでこなせること、親しい者以外に対して暴力を振るう具体的危険性までは認められないことから、常時の介助はもとより、常時の看視、声かけをするまでの必要性はなく、随時看視や見守りが必要な状況にあると判断した。
また、被害者の状況からすると、被害者の両親にとって介護の負担が加重になりつつあり、相当な精神的負担もあるものと考えられるとした。
以上から、
(1)原告太郎の症状固定後原告春子(母)が67歳に達するまでの9年間は、近親者による介護が実施されることを原則とし、一部職業介護人による介護が併用されることを想定し、
(2)原告春子が67歳に達した後原告太郎の平均余命に相当する期間までは、もっぱら職業介護人による介護が実施されるものとそれぞれ想定することが相当であるとした。
このことに、原告太郎に対して必要な介護の内容を勘案して、上記介護費用を認定した。
【本裁判例の特徴】
本記裁判例は、被害者の具体的な症状から、自賠責で認定された等級とは異なる3級3号の高次脳機能障害を認定しつつも、随時看視や見守りが必要な状況であるとして、母親が67歳に達した以降は日額1万5000円という高次脳機能障害3級の事案としては比較的高額な職業介護人費用を認めている点に特徴がある。
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裁判例(6)大阪地判平成17年7月25日 (自保ジャーナル第1611号) |
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| 年齢 | 19歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | びまん性脳軸索損傷、脳腫脹、脳挫傷、下顎骨骨折、頭部挫創、気胸等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号と左同名半盲9級3号の併合1級 |
| 被害者側の状況 |
記銘力低下、学習障害、発動性低下、性格変化等の後遺障害 介助なく食事の摂取や排泄、入浴が可能。転倒防止のために絶えず見守り必要。感情の起伏が激しく自傷行為のおそれがある。半側空間無視があるため慣れない場所に一人で放置しておくことはできない。 現在、介護は両親がほとんど行っている。 |
| 介護内容 | 常時の看視、声掛け |
| 認定された介護費用 | 平均余命まで近親者及び職業介護人日額1万3000円 |
| 原告の請求 |
介護人母67歳まで: (1)平日について日額合計2万706円(職業介護人日額1万6706円、近親者日額4000円) (2)休日について近親者日額2万706円(家族であると本人もわがままをいうため、介護の大変さはいっそう増すこと、仮に休日に職業介護人に来てもらい、近親者が外出すれば平日と同じ費用がかかるのであるから、職業介護人と同様とみるべき) 介護人母67歳以降:職業介護人日額2万706円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、被害者(原告花子)が通院し診察を受けている医師が、「新たな環境への対応や新たな人間関係の構築が困難であるから、同居の家族が絶えず注意深く見守る必要がある」などと回答していること、本件事故後、一時期は、週2日二人のヘルパーを依頼していたものの、ヘルパーと馴染めなかったり、原告花子がヘルパーに不満を持つようになるなどしたため、現在、ヘルパーには月2回病院への送迎を担当してもらっているのみであることなどを認定した。
そして、原告花子の症状から常時の看視、声掛けが必要であるとしつつも、介護の主体については、現在、介護は両親がほとんどを行っており、上記原告花子の状態からすると、現時点において、職業介護人に全面的に委託することは困難であり、当面、こうした介護状況は続くものと考えられるとし、近親者による介護を前提として付添費を算定すべきとした。
その上で、両親が原告花子の介護のために仕事を退職するなどして、いずれも相当な減収が生じていることから、通常の近親者介護による付添費では足りないというべきであるとし、原告花子に必要な介護の内容・程度・精神的負担の大きさをも考慮して、日額1万3,000円をもって相当と認めた。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告らが職業介護人の必要性を主張しているにもかかわらず、被害者の現状から職業介護人による介護は困難と判断し、可能な限り近親者による介護を前提としつつも、近親者が被害者の介護をすることとなったためいずれも相当な減収が生じていることから、通常認められる近親者介護費である日額8000円ではなく、1万3000円の介護費を認めている点に特徴がある。
b 低額に認定された裁判例
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裁判例(7)東京地判平成20年3月19日 (自保ジャーナル第1738号) |
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| 年齢 | 29歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 頭部外傷、脳挫傷、外傷性脳出血等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害5級2号及び嗅覚障害12級との併合4級 |
| 被害者側の状況 |
記憶・学習・遂行機能障害著明、何を話していたか忘れてしまい支離滅裂になる。 原告の両親や、同居人が付添看護を行っている。 |
| 介護内容 | 随時の看視・声掛け |
| 認定された介護費用 | 近親者日額1000円 |
| 原告の請求 | 職業介護人を含めて3000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、原告の状況について、日常生活で支障が生じていること及び医師の所見から記銘力障害、学習障害が著明であり、社会生活が困難であること等を認定したが、原告は単独で外出ができること、基本的な日常生活動作は自立していること、単身での生活も可能であったことから、原告に求められる付添介護の内容については、随時の看視・声かけで十分であり、常時原告がそれらを必要とするものではないとして、将来介護費用を日額1000円で算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、後遺障害等級上介護が要件とはされていない4級の事案であり、原告が単身で生活が可能であったこと、介護の内容は随時の看視・声かけであり、さらに看視・声かけを行う場面も限定されていること、介護の主体が原則として近親者介護を予定していることから低額に算定している。
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裁判例(8)大阪地判平成19年9月26日 (自保ジャーナル第1735号) |
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| 年齢 | 19歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、急性硬膜外血腫、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨骨折 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号 |
| 被害者側の状況 | 記憶障害、注意障害、遂行機能障害 |
| 介護内容 | 随時看視 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
| 原告の請求 | 近親者日額2000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、原告のADLは自立しており自主的に行動できているため、全面的に看視・声掛けを要するような場合と比較すると、介護者の負担は必ずしも大きいとはいえないとした。
もっとも、原告には、ガスコンロの火を消し忘れる、外出先で突然走り出したりするといった危険な場面が過去にあったことや障害の認識が欠けていることなどを考慮し、屋内、屋外を問わず1人にすることなく、危険防止のためにその行動を随時看視することが同原告に必要な介護の内容であるとした。そして、介護者として原告の家族が予定されていることを考慮し、近親者日額2、000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は原告が自立しており介護の種類としては危険防止のための随時の看視で足りるとした上で、近親者が介護者として予定されていることから低額に算定している。
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裁判例(9)京都地判平成16年8月25日 (自保ジャーナル第1575号) |
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| 年齢 | 56歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 左横隔膜ヘルニア、左脛腓骨骨折、骨盤骨折、左寛骨臼骨折、第2腰椎左横突起骨折、脳挫傷、びまん性軸索損傷 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号及び肩関節可動域制限12級6号等併合1級 |
| 被害者側の状況 | 記銘力低下、性格変化、判断力の低下、情動不安定 |
| 介護内容 | 介護及び看視 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
| 原告の請求 | 近親者日額3000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、原告の状態について、記銘力低下、性格変化など高次脳機能障害を示す症状が認められ、判断力の低下や情動の不安定があって、一人で外出できず、日常生活が自宅内に限定され、排泄や食事などは一人で可能であるといえても、生命維持に必要な動作に家族からの声かけや看視を欠かすことができない状態にあると認定した。
そして、原告の状態からは、介護及び看視が必要な状態にあると認められるが、その必要性は主として看視であるとして日額2000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、近親者の介護であること及び介護の内容は主として看視であることを理由に低額に算定している。
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裁判例(10)岡山地裁倉敷支判平成18年11月14日 (自保ジャーナル第1680号) |
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| 年齢 | 28歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭部打撲、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、右頬骨骨折、両側慢性硬膜下出血、脳挫傷、びまん性軸索損傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号及び半盲症9級3号の併合2級 |
| 被害者側の状況 |
記憶障害、知能低下、注意力障害 事故後、父親が保佐人に選任された。 退院後も心療科の診察にはほとんど父親が同行している。 |
| 介護内容 | 看視及び援助並びに治療のための随時の付添 |
| 認定された介護費用 |
口頭弁論終結前まで:近親者日額4000円 口頭弁論終結後以降:近親者日額2000円 |
| 原告の請求 | 不明 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
1 まず、自賠責認定では上記のとおり併合2級に認定されたものの、裁判所は、症状固定後改善しているとして高次脳機能障害を5級と認定し併合4級を認定した。
2 次に、将来介護費用については、用水路への転落、不慣れな場所では方角・方向が判らなくなりやすい、財布等がないと家の中を探し回る、電気ストーブを蹴飛ばして倒す等といった出来事が原告に生じていることを認定した上で、心療科の診察には家族が同行して説明をする必要もあるといった点を考慮し、看視及び援助並びに治療のための随時の付添を認めた。
そして、高次脳機能障害に関する各種検査の結果や、カルテの記載、日常生活能力の判定、医師らの見解等を総合すると、原告の後遺障害が口頭弁論終結時には以前よりも改善していると判断したことから口頭弁論終結前とそれ以降とで将来介護費用の日額を分け、将来介護費用を口頭弁論終結前は近親者日額4000円、それ以降は近親者日額2000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告の日常生活状況を詳細に認定した上で介護の種類を随時介護とするとともに、症状が改善していることを理由に介護費用を分析的に算定した。
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裁判例(11)大阪地判平成15年1月27日 (自保ジャーナル第1497号) |
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| 年齢 | 18歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 急性硬膜下出血、脳挫傷、頭蓋骨骨折、左大腿骨骨折、両側血気胸、肺挫傷、顔面骨骨折等 |
| 自賠責等級 | 上下肢不全麻痺及び記銘力障害等高次脳機能障害3級3号及び視野狭窄9級3号等併合2級 |
| 被害者側の状況 |
左上下肢不全片麻痺、記憶・記銘力障害、集中力障害、遂行機能障害、判断能力低下等 症状固定後、原告の父母や職業介護人が付添介護にあたっている |
| 介護内容 | 外出時を中心とする随時看視 |
| 認定された介護費用 | 近親者及び職業介護人日額3000円 |
| 原告の請求 |
近親者日額5500円 職業介護人日額1万9000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
1 まず、自賠責認定では上記のとおり併合2級に認定されたものの、裁判所は、日常の生活範囲は自宅内に限定されており、外出に際しては看視が必要であることを理由として高次脳機能障害を2級1号と認定し併合1級を認定した。
2 次に、将来介護費用については、原告には外出時には看視が必要であるとしても、自宅内における日常生活動作はほぼ自立していると認定し、その付添介護の内容としても、主に外出時を中心として随時看視することに限られる上、原告が労働能力を100%喪失していることから、将来は、原告の外出時間及び外出先を取捨選択することにより原告の被る危険を逓減することが予想されるとして、近親者付添費及び職業付添人付添費を含め日額3、000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、生命維持に必要な身辺動作についてはほぼ自立していることを認定した上で介護の内容は外出時を中心とする随時の看視で足りるとし、さらに外出についても時間や場所を選択すれば危険を逓減しうるとの理由から近親者のみならず職業介護人の費用としても低額に算定した。
| 裁判例(12)東京地判平成19年3月28日(自保ジャーナル第1702号) | |
| 年齢 | 23歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脳挫傷、外傷性脳内出血、骨盤骨折、左大腿骨骨折、偽関節骨髄炎、左母趾指末節欠損等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害3級3号及び左下肢機能障害等併合1級 |
| 被害者側の状況 |
幼児返り、記憶障害、左片麻痺等 原告の両親はともに高齢であり、定期的に通院している |
| 介護内容 | 随時の介助、看視 |
| 認定された介護費用 | 職業介護人日額3300円 |
| 原告の請求 | 職業介護人日額1万8811円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、まず原告に顕著な記憶障害が認められ、付添い、介助がなければ、社会生活を営むことが極めて困難であると認定し、原告の近親者は高齢かつ病気で通院しているため、原告の介助は、将来的には職業介護人に頼らざるを得ないとして職業介護人による介護が必要であるとした。
次に、将来介護費用については、原告が食事、更衣、排せつ、洗面・歯みがきなどの基本的な日常生活動作は自立していること及び高次脳機能障害としては記憶障害が主であり情動障害、行動障害その他の障害は顕著でないことを理由に、常時介助あるいは看視している必要まではないとして、日額3300円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、近親者の現状から職業介護人が必要としつつも、原告が基本的な日常生活動作は自立していること、原告の高次脳機能障害は記憶障害が主であることから、介護の内容としては随時の付添等で足りることを理由として低額で算定している。
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裁判例(13)前掲 頁大阪地判平成12年10月30日 (自保ジャーナル第1403号) |
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| 年齢 | 5歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭部外傷、右外傷性脳内出血、外斜視 |
| 自賠責等級 | 不明 |
| 被害者側の状況 |
集中力持続困難、左片麻痺、外傷性てんかん等 特定の服の着脱、入浴、登下校の場面で家族による介助を受けている。 |
| 介護内容 | 随時介護 |
| 認定された介護費用 | 職業介護人日額5000円 |
| 原告の請求 | 日額7000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
1 裁判所は、まず原告は自宅外の行動が困難であり、随時他人の介護が必要な状態にあるとして後遺障害等級を2級相当と判断した。
2 次に、将来介護費用については、原告の年齢、母子家庭という家庭状況から、原告の母親が家計を維持するために働くようになり、原告の介護は職業介護人に依頼する蓋然性が高いことから、職業介護人を雇用することを前提としてその額を算定するのが相当であるとした。
そして、原告は、完全に自立しているADLも多いため、介護の必要な場面はある程度限られていること、精神面に関しては加齢に伴う生理的発達、成長により介護の負担等が軽減される蓋然性があること等を考慮すると、将来的には介護が軽減されると考えられるとして、日額5、000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
上記裁判例は、原告の家庭状況等から職業介護人の介護を必要としたものの、原告の自立の程度から介護を要する場面が限られていること、原告が若く、成長による介護の負担軽減を考慮して低額に算定している。
なお、介護保険との関係については前掲を参照。
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裁判例(14)大阪地判平成17年8月24日 (自保ジャーナル第1629号) |
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| 年齢 | 7歳(事故時) |
| 性別 | 女子 |
| 傷害内容 | 脾臓破裂、腹腔内出血、脳挫傷、両側肺挫傷等 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害2級3号及び脾臓摘出等の併合1級 |
| 被害者側の状況 |
言語機能障害、記銘力障害、右方麻痺等 症状固定後も原告の母親が身の回りのことについて介護作業や指示をしている |
| 介護内容 | 随時介護 |
| 認定された介護費用 |
原告の母親が67歳になるまで:近親者日額3000円 上記以降:職業介護人日額5000円 |
| 原告の請求 | 近親者及び職業介護人日額5000円 |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、原告は食事、更衣、排泄については概ね他人の手助けがなくても自力でこなすことができ、家の中にいる限りは、自己の生命身体に危害を及ぼすような行動にでることもないが、入浴を自力で行うことは困難で、歩行の安定性や安全に関する判断に問題があり、自分で買い物をすることができず、一人で外出するには無理があるとして、随時介護が必要であるとした。そして、将来介護費用を原告の母親が67歳になるまでは同人が付き添うとして日額3、000円、それ以降は、職業介護人が付添うとして日額5、000円と算定した。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告がある程度自立しているが、入浴や外出時には介助 が必要であるとして随時介護を前提とした上で、症状固定後も原告の介護を行っている原告の母親の年齢が67歳までとそれ以降とで,介護の主体を分けてそれぞれ低額に算定した。
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裁判例(15)大阪地判平成17年4月13日 (自保ジャーナル第1602号) |
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| 年齢 | 39歳(事故時) |
| 性別 | 男子 |
| 傷害内容 | 頭蓋骨骨折、急性硬膜下血腫、脳挫傷、急性硬膜外血腫、外傷性くも膜下出血、耳出血、水頭症、眼球運動障害、視野異常 |
| 自賠責等級 | 高次脳機能障害1級3号 |
| 被害者側の状況 |
物忘れ等 症状固定後も医療保護入院中 |
| 介護内容 | 否定 |
| 認定された介護費用 | 否定 |
| 原告の請求 | 近親者日額1万円及び職業介護人月額93万6000円(30日計算で日額3万1200円) |
【上記介護費用の認定に至った理由】
裁判所は、原告の状態について、食事をしたりトイレヘ行くこと、着替えなど日常生活のほとんどの面にわたって介助が必要である上、幻覚や妄想、短期記憶の障害などにより、何かあれば駆けつけて対応できるように常に誰かが付き添って様子をうかがっていなければならない状態にあるとし、原告の妻自身現状で自宅介護に切り替えることは無理であると考えていることを考慮すれば、現時点の原告の状態で自宅介護に切り替えることはできないとして自宅介護を否定した上で、将来の看護費用は、自宅介護を前提とするものであることを理由に介護費用を否定した。
もっとも、将来の入院治療費を認めている。
【本裁判例の特徴】
本裁判例は、原告の状態を具体的に認定した上で、自宅介護の予定もたっておらず自宅介護に切り替えることはできないとして、自宅介護を前提とする将来介護費用を否定した。
イ まとめ
a 高額に認定された裁判例のまとめ
介護の主体が職業介護人であれば高額に認定されやすい傾向にある(裁判例(1)(2)(3)(4)(5))。もっとも、近親者介護であっても、その近親者が介護によって相当な減収が生じている場合には高額な介護費用も認められている(裁判例(6))。また、一日のうち、時間によって近親者と職業介護人とを使い分ける必要がある場合には、その点を具体的に主張立証し、日額の介護費用として比較的高額ものが認められていることもある(裁判例(1)(2)(3)(4))。
b 低額に認定された裁判例のまとめ
まず、介護場所について、自宅介護であることが介護費用発生の前提になるものといえる(裁判例(15))。
次に、介護の主体が職業介護人ではなく近親者である場合には低額に認定される傾向にあるといえる(裁判例(7)(8)(9)(14))。
他方、介護の客体については、年齢が若い場合には、将来の回復可能性から低額に認定されることがあるといえる(裁判例(13))。
また、高次脳機能障害の内容についても、情動障害、行動障害といった他者加害・自己加害のおそれがある高次脳機能障害よりも記憶障害の方が随時介護に結びつきやすく低額に認定されやすいともいえる(裁判例(12))。
さらに、介護と看視では、看視の方が低く認定される傾向にあるといえる(裁判例(9)等)。
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名古屋高裁 H19.2.16 自保ジャーナル第1688号 |
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| 事案 |
5歳男子 排泄傷害のほか高次脳機能障害で1級3号 |
| 当事者主張の日額 |
控訴人(第1審原告)・・・ ①養護学校在学中 近親者日額2500円~5000円、職業介護人日額7500円~2万1610円 ②養護学校卒業後母親67歳に達するまで 近親者日額2500円、職業介護人日額2万1610円 ③母親67歳以降 職業介護人日額3万5310円 被控訴人(第1審被告)・・・ ①母親67歳に達するまで 近親者日額5500円 ②母親67歳以降 職業介護人日額1万2000円 |
| 認定された介護費用 |
被害者18歳まで: 日額合計1万5000円(近親者日額5000円、職業介護人日額1万円) 介護人母67歳まで: 日額合計2万円(近親者日額5000円、職業介護人日額1万5000円) 介護人母67歳以降: 職業介護人日額3万円 |
| 高額に認定された判断のポイント |
①将来にわたって、常時の見守り及び身体介助の双方が必要 ②被害者は体格が良く、職業介護人は2人1組で介護に当たっている ③母親一人による介護を長期化させることは母親の健康面から著しい困難が伴う |
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福岡地裁 H17.7.12 自保ジャーナル第1612号 |
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| 事案 |
69歳女子 1級1号高次脳機能障害等 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・日額3万5392円 |
| 認定された介護費用 |
平日・土曜日: 日額合計2万9392円(近親者日額4000円、職業介護人等日額2万5392円) 日曜日: 近親者日額8000円 |
| 高額に認定された判断のポイント |
①日常生活全てに介助・監視が必要な状態 ②職業介護人については実際に要する実費全額を損害と認めている |
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東京地裁 H15.8.28 自保ジャーナル第1525号 |
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| 事案 |
21歳女子 1級3号高次脳機能障害等 |
| 当事者主張の日額 |
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| 認定された介護費用 |
介護人母67歳まで: 日額合計1万1692円(近親者日額8000円、職業介護人日額3692円) 介護人母67歳以降: 職業介護人日額2万4000円 |
| 高額に認定された判断のポイント |
①生活のほとんどの場面において介助までは要しないが、常時の監視ないし促しは必要 ②職業介護人による介護費は1日当たり13時間の介護を要するため、最低でも1日に2人の職業介護人が必要となり、1日当たり4万円を下回ることはないと考えられる |
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さいたま地裁 H18.8.4 自保ジャーナル第1682号 |
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| 事案 |
59歳女子 1級3号高次脳機能障害と下肢関節の用廃8級7号との併合1級 |
| 当事者主張の日額 |
原告・・・土日祝日は近親者日額1万円、平日は職業介護人日額2万円 被告・・・近親者介護費を基準にすべき |
| 認定された介護費用 |
近親者日額1万円 職業介護人日額2万円(近親者介護分含む) |
| 高額に認定された判断のポイント |
①日常生活のほとんどの場面において常時介護が必要 ②賠償金の支払がなされた場合には、近親者が就労を始める予定がある |
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大阪地裁 H20.4.28 自保ジャーナル第1750号 |
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| 事案 |
25歳男子 3級3号高次脳機能障害と難聴10級4号との併合2級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・近親者日額1万円又は1万7000円、職業介護人日額2万1266円又は3万5110円 |
| 認定された介護費用 |
介護人母67歳まで: 近親者日額3500円(一部職業介護人) 介護人母67以降: 職業介護人日額1万5000円 |
| 高額に認定された判断のポイント |
①随時看視や見守りが必要な状況にある ②近親者の介護の負担が過重になりつつあり、相当な精神的負担もある |
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大阪地裁 H17.7.25 自保ジャーナル第1611号 |
|
| 事案 |
19歳女子 2級3号高次脳機能障害と左同名半盲9級3号の併合1級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・日額合計2万706円 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額1万3000円 |
| 高額に認定された判断のポイント |
①常時の看視、声掛けが必要 ②介護に当たる近親者に相当な減収が生じている |
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東京地裁 H20.3.19 自保ジャーナル第1738号 |
|
| 事案 |
29歳女子 記銘力傷害等5級高次脳機能障害と12級嗅覚障害との併合4級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・日額3000円 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額1000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①被害者が単身で生活可能 ②介護内容は随時看視・声かけであり、看視・声かけを行う場面も限定 ③近親者介護 |
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大阪地裁 H19.9.26 自保ジャーナル第1735号 |
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| 事案 |
19歳男子 物忘れ等2級3号高次脳機能障害 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・日額2000円 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①被害者は自立している ②介護内容は危険防止のための随時介護 ③近親者介護 |
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京都地裁 H16.8.25 自保ジャーナル第1575号 |
|
| 事案 |
56歳女子 記銘力低下等2級高次脳機能障害と肩関節可動域制限12級6号との併合1級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・日額3000円 |
| 認定された介護費用 | 近親者日額2000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①排泄や食事は一人で可能 ②介護内容は主として看視 ③近親者介護 |
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岡山地裁倉敷支部 H18.11.14 自保ジャーナル第1680号 |
|
| 事案 |
28歳男子 5級高次脳機能障害(自賠責では3級3号)と半盲9級3号との併合4級 |
| 当事者主張の日額 | - |
| 認定された介護費用 |
口頭弁論終結まで 近親者日額4000円 口頭弁論終結後以降 近親者日額2000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①介護内容は看視、援助及び治療のための随時の付添 ②近親者介護 ③後遺障害が口頭弁論終結時には以前よりも改善 |
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大阪地裁 H15.1.27 自保ジャーナル第1497号 |
|
| 事案 |
18歳女子 記銘力障害等2級高次脳機能障害(自賠責では3級3号)と視野狭窄9級3号等との併合1級 |
| 当事者主張の日額 |
原告・・・近親者日額5500円、 職業介護人日額1万9000円 被告・・・日額1500円 |
| 認定された介護費用 | 近親者及び職業介護人ともに日額3000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①生命維持に必要な身辺動作はほぼ自立 ②介護内容は外出時を中心とする随時看視であり、外出時に危険も逓減しうる |
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東京地裁 H19.3.28 自保ジャーナル第1702号 |
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| 事案 |
23歳女子 記銘力低下等3級3号高次脳機能障害と左方麻痺等併合1級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・職業介護人日額1万8811円 |
| 認定された介護費用 | 職業介護人日額3300円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①基本的な日常生活動作は自立 ②原告の症状は記憶障害であり、情動障害等ではない ③介護内容は随時の付添等 |
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大阪地裁 H12.10.30 自保ジャーナル第1403号 |
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| 事案 |
5歳男子 中枢神経及び精神障害等併合2級 |
| 当事者主張の日額 |
原告・・・日額7000円 被告・・・日額3000円 |
| 認定された介護費用 | 職業介護人日額5000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①完全に自立しているADLが多い ②介護の必要な場面は限定されている ③成長による介護の負担軽減の蓋然性がある |
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大阪地裁 H17.8.24 自保ジャーナル第1629号 |
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| 事案 |
7歳女子 言語障害等2級3号高次脳機能障害と脾臓摘出等の併合1級 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・近親者及び職業介護人ともに日額5000円 |
| 認定された介護費用 |
介護人母67歳まで 近親者日額3000円 67歳以降 職業介護人日額5000円 |
| 低額に認定された判断のポイント |
①ある程度自立 ②介護内容は入浴や外出時の随時介護 ③原告の母親が67歳までとそれ以降とでの介護主体の区別 |
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大阪地裁 H17.4.13 自保ジャーナル第1602号 |
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| 事案 |
39歳男子 物忘れ等1級高次脳機能障害 |
| 当事者主張の日額 | 原告・・・近親者日額1万円、職業介護人日額3万1200円 |
| 認定された介護費用 | 介護費を否定 |
| 低額に認定された判断のポイント | ①原告の状態からは自宅介護は困難 |
ア 交通事故の損害賠償請求は、通常一時金賠償方式の方法によってなされることが多い。
これは、被害者側にとってはまとめて多額の金銭を獲得できるとともに、当事者双方にとっても紛争を一回的かつ終局的に解決することができ、交通事故によって生じた関係を早期に解消できるからであると思われる。
しかし、一時金賠償方式では将来の介護費用を口頭弁論終結時に確定しなければならないため、将来支払われる金額の算定が困難であり、審理も長期化するおそれがある。
そこで、最近では定期金賠償による解決が試みられるようになってきている(石田憲一「定期金賠償の動向」損害賠償額算定基準2004年版504頁(平成16年)参照)。
イ 定期金賠償方式によるメリットとしては、以下の4つのものが挙げられる。
(1)実態に即した妥当な金額の算定
前述のように、一時金賠償の場合には、将来の介護費用を現在の資料に基づいてあくまで推測して算定するしかないが、定期金賠償だと、金額を事情に応じて変更することも可能になるため、実態に即した妥当な金額の算定ができるといえる。
この点に関し、前掲東京地判平成15年8月28日では、なお書きで「長期間にわたる将来の介護費のように、将来の事情の変更が予想されるためにその算定が極めて困難である損害の賠償については、変更判決の制度〔民訴法117条〕のある定期金賠償を求める方が、現時点における判断をそのまま損害額の算定に反映することができるために、本来発生する損害額により近い認定が可能であることを付言する」という判断がなされており、この裁判例からは定期金賠償の方法によれば現実の介護費用を基準とした金額で判決が出される可能性が高いことがうかがわれる。
(2)余命認定の問題を回避できる
将来介護費の算定においては、被害者が死亡した場合には死亡後の介護費を請求できないとするのが裁判所の立場であるため(最判平成11年12月20日(自保ジャーナル第1327号))、一時金賠償方式では余命期間の認定が争点となることも多いが、定期金賠償方式では被害者が死亡するまでの支払いを命じればよいため、余命認定の問題を回避できる(後掲裁判例(6)参照)。
(3)中間利息控除率の問題を回避できる
一時金賠償方式における中間利息控除率は現在5%とされているところ、その利率についても争われることは少なくないが、定期金賠償方式では中間利息率控除の問題は生じない。
ウ 他方、デメリットとしては、以下の2点が挙げられる。
(1)履行の確保
一時金賠償方式においては、まとめて金銭を支払うことになるので、支払われればその後の履行の問題は生じないが、定期金賠償方式では将来にわたって長期間の継続的な支払いがなされることになるため、たとえ口頭弁論終結時には加害者側の資力に余裕があったとしてもその後悪化した場合に支払いが滞るおそれがあるといえる。
(2)管理コストがかかる
定期金賠償方式の場合、長期間の継続的な支払いがなされるため、例えば保険会社が損害賠償義務者である場合、定期的に支払いの監視をするとともに、事情変更に対処していく必要があるため管理コストがかかる。
エ それでは裁判において定期金賠償による判決を得るためにはどうすればよいか。
この点、前掲東京地判平成15年8月28日では、「本件においては、当事者が一時金賠償の方法による判決を求めたために定期金賠償の方法を採らなかったが」とされており、当事者が定期金賠償の方法を求めていた場合には、定期金賠償の方法による判決が認められることになるものと思われる。
そして、高次脳機能障害の事案ではないものの最判昭和62年2月6日(自保ジャーナル第715号)によれば、「損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立をしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当である」とされており、原告からの申立がある場合に定期金賠償の方法によることにはあまり問題はないものと思われる。
それでは、原告が定期金賠償を出張していない場合に、被告から定期金賠償を主張した場合、定期金賠償による判決が認められるか。
この点、上記裁判例によれば、原告が申し立てていない以上は被告が主張しても認められないようにも思われる。しかし、上記裁判例は変更判決制度が規定されていなかった旧民事訴訟法下での判例であり、変更判決制度(民訴法117条)が新設された新民事訴訟法の下で、どのように解すべきなのかは別途問題となるため、以下裁判例を検討する。
【裁判例(1)】
福岡地判平成18年9月28日(判例時報1964号127頁)
事故時27歳男子が意思疎通困難、易怒性、自殺念慮等高次脳機能障害3級3号を残した事案
裁判所の判断
「原告らが一時金による賠償の支払を求めているのに対し、乙山は、定期金による支払を認めるよう求めている。しかしながら、損害賠償請求権者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和51年10月26日第3小法廷判決・週刊自動車保険新聞昭和52年5月28日号及び最高裁昭和59年(オ)第1058号及び第1059号同62年2月6日第2小法廷判決・裁判集民事150号79頁を参照)」
本裁判例は前述した最高裁判決を引用して、新民事訴訟法下においても旧民事訴訟法下での見解が同様に妥当する旨判断している。
【裁判例(2)】
さいたま地判平成17年2月28日(自保ジャーナル第1586号)
事故時72歳女子が左不全麻痺、高次脳機能障害等1級3号を残した事案
裁判所の判断
被告からの定期金賠償によるべきとの主張に対し、「そもそも原告の請求は一時払いの請求であり、定期金賠償を求めていないことからして、被告の主張は採用できない」と判示した。
本裁判例は、特に理由を示さずに前述した最高裁判決の考えと同様に判断している。同じ見解に立つものとして他に東京地判平成16年12月21日(自保ジャーナル第1587号)がある。
【裁判例(3)】
東京地判平成17年2月24日(自保ジャーナル第1593号)
事故時46歳女子が尿便失禁のほか高次脳機能障害による1級3号後遺障害を残した事案
裁判所の判断
「損害賠償においては、将来発生する蓋然性のある損害についても現在の一時金として請求しうるところ、損害賠償請求権者が定期金による賠償を求めていない場合に、敢えて定期金による賠償を認めるのは、処分権主義に照らし、合理的な根拠があるとはいえないから、原告花子が将来介護費につき定期金による賠償を求めていない本件においては、被告の主張は採用できない。」
上記裁判例は、一時金か定期金かの選択を処分権主義の問題として捉え、前述した最高裁判決と同様の判断をしているように思われる。
【裁判例(4)】
東京高判平成16年7月14日(自保ジャーナル第1563号)
事故時57歳女子が高次脳機能障害、四肢筋力低下等1級3号後遺障害を残した事案
裁判所の判断
「将来の介護料について、被告は一時金ではなく定期金によるべきであると主張するが、前掲の原告花子の後遺障害の内容及び程度、原告花子の年齢と平均余命までの期間、裁判所の認定した介護料の額等本件に現れた事情に照らしても、これを一時金で支払うことを命ずることが損害の賠償という観点に照らし公平を欠くというべき事情は窺えず、原告花子において一時金による賠償を求めている本件において定期金による支払を命ずる理由は認められない。」
上記裁判例は、一時金での支払いが公平を欠くという事情がある場合には、被告からの主張により定期金賠償が認められる余地があることを示唆したものとも考えられる。同様の見解に立つものとして大阪地判平成19年12月10日(自保ジャーナル第1737号)があげられる。
【裁判例(5)】
東京高判平成15年7月29日(判例時報1838号69頁)
48歳女子が植物状態の1級3号後遺障害を残した事案
裁判所の判断
「控訴人は、将来介護費用の損害賠償について、被害者保護を確保することを当然の前提として、損害の衡平な分配という不法行為法の理念を失わずに賠償義務を加害者に負わせる方法として定期金賠償の方法によるべきであると主張する。
確かに、介護費用はもともと定期的に支弁しなければならない費用であり、植物状態となった被控訴人Aの推定的余命年数については少なくとも現時点から20年ないし30年と推認することは困難であるものの、この推定余命年数は少ない統計データを基礎にするものであり、現実の余命と異なり得るものであることはもちろん、被控訴人Aの身体状態、看護状況、医療態勢や医療技術の向上の一方で、思わぬ事態の急変もあり得ることなどを考慮すると、概ねの推定年数としても確率の高いものともいい難い。
そうすると、推定的余命年数を前提として一時金に還元して介護費用を賠償させた場合には、賠償額は過多あるいは過少となってかえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険がある。
このような危険を回避するためには、余命期間にわたり継続して必要となる介護費用という現実損害の性格に即して、現実の生存期間にわたり定期的に支弁して賠償する定期金賠償方式を採用することは、それによることが明らかに不相当であるという事情のない限り、合理的といえる。
これに対し、被控訴人Aは、損害賠償請求権利者が訴訟上一時金による賠償の支払を求める旨の申立てをしている場合に、定期金による支払を命ずる判決をすることができないとし、その理由として、これを命ずることについての問題点とされていた、
(1)貨幣価値の変動等の事情変更があった場合の対処方法がないこと、
(2)賠償義務者の資力悪化の危険を被害者に負わせることになること
の内、(1)の点は平成8年法律第109号として制定された民事訴訟法117条において、定期金による賠償を命じた確定判決についての変更を求める訴えの制度が設けられて解決したといえても、(2)の点は、未だ問題として残されたままではあることを指摘する。
しかし、一時金による将来介護費用の損害賠償を命じても、賠償義務者にその支払能力がない危険性も大きいし、賠償義務者が任意に損害保険会社と保険契約を締結している場合には、保険会社が保険者として賠償義務を履行することになるから、不履行の危険性は少なくなるものといい得る。
(証拠略)によれば、控訴人は、自動車事故による損害を填補するため、富士火災と任意に損害保険契約を締結していたことが認められるから、控訴人の損害賠償義務は保険者である富士火災が履行することになると推認される。
もっとも、(証拠略)を併せると、富士火災は平成13年9月中間決算期に経常損益が赤字であるなど経営状況が安定しているとはいい難く、近年は保険自由化が進み、保険会社間の競争も激化し、下位の損害保険会社の中には倒産したものがあったことが認められるが、富士火災が将来破産など倒産するとまで予測することはできない。
そうであれば、被控訴人Aの将来介護費用の損害賠償債権は、その履行の確保という面では一時金方式であっても定期金賠償方式であっても合理性を欠く事情があるとはいえないし、民事訴訟法27条の活用による不合理な事態の回避も可能であるから、将来の介護費用損害に定期金賠償方式を否定すべき理由はない(なお、被控訴人Aは、介護費用についても定期金による賠償について反対しているものの、第1審における2002年5月17日付け準備書面においては、その試算を前提に定期金による賠償も魅力的なものとの意見を示していた。)。
以上によれば、被控訴人Aの将来の介護費用損害については、被控訴人Aの請求する将来の介護費用損害を超えない限度で、控訴人に対し、定期金による賠償を命ずるのが相当である。
そして、その期間については、被控訴人Aの推定余命期間が確定したものではないから、平成15年6月25日から被控訴人Aが主張(原文ママ)通常の平均余命までの期間を超えない限度で、これが確定する死亡又は平均余命の84歳に達するまでのいずれかの時期までとし、支払方法については、毎月24日限り前月25日からの1か月分を支払うこととするのが相当である。」
上記裁判例は、当事者間の公平という観点からは、一時金賠償を命じた方が公平を害する危険がある場合もあるとした上で、当該事案では履行の確保も図れていること、被控訴人(原告)は定期金賠償に応じる余地も全くないとはいえないこと等を理由として、定期金賠償を命じた。
【裁判例(6)】
東京地判平成18年3月2日(自保ジャーナル第1650号)
事故時25歳女子が5級高次脳機能障害、7級外貌醜状等併合3級後遺障害を残した事案
裁判所の判断
「民訴法117条1項は、口頭弁論終結時に生じた損害につき、定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することができると規定しているが、これは、将来において、口頭弁論終結時に予測し得なかった著しい事情の変更があった場合、損害額に大きな影響を及ぼすことがあることに配慮したものであると解される。
そこで、検討するに、例えば、将来の介護費用のように、介護費用の額に大幅な変動の可能性があり、その認定が困難であるとか、余命の認定が困難である等の事情から、著しい事情の変化が損害額に大きく影響を与えるような場合において、当事者の衡平を図るため、定期金賠償方式による支払を命じる合理性及び必要性が認められるといえる。
そして、将来の介護費用に関しては、被害者が事後的に交通事故とは別の原因で死亡した場合に、その時点で損害が認められなくなること(いわゆる「切断説」)との関係においても、終期を「死亡時」とする定期金賠償方式に整合するものといえる」
上記裁判例は、当事者の公平を図るという観点から、定期金賠償方式を認める必要性がある場合を挙げており、前記裁判例(4)と同様の見解に立っているものと思われる。また、将来介護費用は定期金賠償方式に整合するとの判断も示している。
オ 検討
このように裁判例は否定と肯定に分かれているといえる。
もっとも、裁判例(1)からうかがえるように旧民事訴訟法下とはいえ前述した最高裁判決は大きな影響力を有しているといえる上、肯定した裁判例(5)についても、「なお、被控訴人Aは、介護費用についても定期金による賠償について反対しているものの、第1審における2002年5月17日付け準備書面においては、その試算を前提に定期金による賠償も魅力的なものとの意見を示していた」という原告側に定期金賠償に応じる余地があったという特殊な事案であるとも思われる。
したがって、原告が定期金賠償を主張せず被告が定期金賠償を主張したという場合において、定期金賠償が認められるか否かの結論については判例の集積を待つ他ないが、現時点では認められた事例が少ないことから、定期金賠償が認められることは難しいのではないかと思われる。